その笑顔は反則だから

「ゴンちゃーん」
「あれ?拓也ー」

机に突っ伏してうたた寝していた耳に入ってきたアイツの声。

「あれ?じゃないよー、和英の辞書返して。次、僕のクラス英語だから!」
「あ、ごめんごめん」

榎木は隣のクラス。
後藤よりも榎木と同じクラスがよかったぜ。
机に突っ伏したまま、寝ている振りをして、聞き耳をたてる。

「今、そっちのクラスどこまで進んだ?」
「今日は模試対策のテキスト解説やったぞ」
「あ、じゃあウチも今日それかな?」

受験生だからって、昼休みまでそんな話題じゃなくていいだろ、榎木。
でも、それが"らしく"て可愛い。

「あ、そういえば昨日、実がね…」

今度は実の話。
やっぱり"らしく"て微笑ましい。


キーン コーン …

「あ、予鈴だ。戻らなきゃ」
「ん。辞書、ありがとな」
「どういたしまして」

当然だけど、教室戻るのか。
同じクラスだったら、授業中でも姿見れるし、声聞けるのに…。

残念―――…

「藤井君」

!?

不意に声をかけられて、反射的に顔を上げる。

「おはよ。もうすぐ授業だよ?」

目の前に、榎木の笑顔。

(うっわ…)

前触れもなく、それは反則だろ…
「あ…あぁ…」
動揺して、情けない返答。

「じゃあ、僕戻るね。バイバイ」
と、一度俺の席から離れかけて

「あ…藤井君、後で過去問見て欲しいトコあるんだけど…いいかな?」
「いいけど…榎木が解らないところ、俺が解るか?」
「理科は藤井君のが得意じゃない。化学式の問題」
「ん。じゃあ後でな」
「ありがとう!」

笑顔で手を振り、教室を出て行く。

「藤井…」
後藤に声をかけられ
「…何だよ」

「顔、デレてる」
「!!」

「ほっとけ」
ふいっと顔を背けてはぐらかす。

「拓也も罪作りだなぁ~♪」
「うるせーよ!早く席戻れ!」
「ハイハイ」
そんなやり取りをしている間に本鈴がなり、授業が始まる。

授業も受験も追い込み。

アイツと同じ高校に行く為に、
(もうひと踏ん張り頑張りますか)

やる気を最大級にフルチャージするのは、アイツの反則級の笑顔――――。





      -2013.01.10 UP-
☆――――――――☆
「初々しい恋10題」より
"その笑顔は反則だから"

お題提供:確かに恋だった
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