昼下がり、屋上で

――♪
メールの着信音で目が覚める。
目が覚めると言っても、寝てた感覚が殆どない。

『おはよう、藤井君。あの後眠れた?』
榎木からのモーニングコール。
あの後とは、あのメールの事だろうな。
「寝れなかったよ、クソッ」

ぼーっとする頭を抱えて学校へ行く支度を始めた。


(………)
授業中。
睡魔と戦いながら黒板を見る振りして、3列斜め前の席を眺める。

いつもはせっせと黒板をノートに写すアイツは、今日は何だか…
(ぼーっとしてる…?)
流石に居眠りはするまいと、時々頭を左右に振ったり頬をペチペチと叩いている。
(珍しいな…)

「次の問いは―――榎木」
「はっはい!」
ガタッと立ち上がり、黒板の公式を解く。
「正解」
当てられて慌てるのも珍しいが、それでも正解とは流石榎木。
席に戻りながら安堵した表情をする。
椅子に座る瞬間、顔を上げた榎木と目が合った。
一瞬のハニカミ笑顔。
(その笑顔だけで、この授業起きてた価値アリ)
榎木が書いた解答をノートに書き写しながら心でガッツポーズをした。

授業終了。
伸びをしている榎木に近付き声をかけた。
「榎木、眠いのか?」
「あ…うん」
小さく答える。
「だって藤井君があんなメールよこすから」
と、ポツリと呟いた。
「起きてたのか!?」
あのメール、リアルタイムで読まれてたのかと思うと…かなり恥ずかしい。
「嘘。メール関係なく、始めから眠れなかっただけ。…藤井君はメールの後ちゃんと眠れた?」
眠気でトロンとした上目遣いで聞いてくる。
これを天然でやるからタチが悪い。
「…寝てねーよ」
ふいーと、視線を泳がせて返事。
「じゃあお昼休み、一緒に屋上でお昼寝しよう」
へらっと笑って誘ってくる。

「あ、小野崎君、今日僕達お昼屋上でお昼寝するから放っといて」
榎木の斜め後ろの席で、次の授業の準備をしていた小野崎に話しかける。
「…は!?」
一瞬驚いた顔で榎木を見た後、呆れた顔で俺の顔を見る小野崎。
「お前、学校で変な事すんなよ?」
「する訳ねーだろ!」
きっと睡魔で自分の言動分かってねぇな、榎木。

4限終了後、弁当を持って早く早くと、屋上への階段を駆け昇る。
ドアを開けると、風がないせいか、季節の割に暖かい。
1人でいるヤツや数人のグループが幾つかと、人の出入りはまばらだ。
日当たりのいい場所をゲットした。

弁当を食べ終えて、二人でゴロンと横になった。

「榎木がこんなに学校にいる時間に眠いのって、珍しいな?」
「うー…ん…」
相当眠いのか、もう殆どまどろんでいる。

「だって…ベッド入ると藤井君の事ばっか考えちゃっ…て…ドキドキ、して眠れ…なぃ…」
す――――……

何か今、凄い口説き文句言われた気が…!!

ガバッと起き上がり赤面を隠すように片手で顔を覆って、指の隙間から榎木の寝顔を盗み見る。
既に規則正しい寝息が聞こえる。

顔の横に広げられた右手に自分の左手を重ねてみると、ぎゅっと握って来た。

「………っ」

愛おしいってこういう事なんだろうか?

そっと覆いかぶさって、軽く唇を合わせた。

すると一瞬「んっ」と声を出し眉が動いたが、またすぐに整った寝息に戻る。

昼休み終了まであと30分。
30分後、安心しきった顔で眠るこの眠り姫をどう起こそうか考えるのも、また楽しいな。


柔らかい日差しの中、ある昼下がり、屋上にて――――。




      -2013.01.07 UP-

☆――――――――☆
「昼下がり、屋上で」
(「昼下がり、中庭で」改変)

お題提供:impure
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