ゆく年 くる年

12月31日。
もうすぐ年が明ける。

拓也・藤井・後藤・森口は、小学校で待ち合わて、近所の小さな神社へお参りに行く事にした。
そこは、普段は子供達の遊び場になるような、いわゆる町の氏神神社なので、年末年始だからと言って遠方から人が殺到して賑わう神社ではない。

「去年はお前達受験だったんだよなー」
と森口が言う。
「そうそう、大変だったよね」
「特に後藤がな」
「ひでぇ藤井!事実だけど」

この4人で会うのは、昔の気持ちに戻れて心地良い。
そんな事を思いながら、拓也は皆のやり取りを見ていた。

神社に着くと、地元の人達が若干いて、焚火を囲んでいた。

「おー、後藤酒店の倅ー」
「こんばんはッス」
「甘酒飲むかー?」

商店街に酒屋を営む後藤の家は、地元では顔を知らない人はいない。
勿論、子供の頃から商店街にお世話になっている拓也達も顔見知りだ。

「拓也君達も大きくなったなー最近はあまり買い物来てくれないから」
「学校が忙しくて…」
甘酒を受け取りながら、すみませんと笑って答える。
「その代わりに実君や一加ちゃん、マー坊がお使いに来るようになったけどな」
今のご時世、まだ10歳にも満たない子供が安心して買い物が出来るのは、商店街の人達の相変わらずな暖かい目と心配りがあるからだ。

ゴーン…と除夜の鐘が響き始める。

「お」
「始まった」
「煩悩よ、消え去れー」
除夜の鐘を聞きながら、あと数分後にやってくる新しい年に思いを馳せる。

「榎木は何願うんだ?」
藤井が甘酒を啜りながら拓也に問う。
「え?やっぱり家族の健康かな」
家族を大切に思う拓也らしい願い。

「それと…」

コソっと耳打ち。

"藤井君と、また一年仲良く過ごせますように"


やられた―――


思わぬ今年最後のサプライズに、残り僅か数分なのに藤井の気持ちは何十倍も膨らむのを感じた。

この気持ちは、一年後にはどの位まで増えているのだろう…。

「昭広ー拓也ー、カウントダウン始まるぞー」

後藤と商店街の人たちと雑談をしていた森口が、二人に声をかける。

「10!9!8…」
「榎木、ちょっと…」
「え!?」
溢れる想いは、拓也の手を取って社務所の陰へ走っていた。

「3!2!1!」

Happy New Year!!

周りの歓声と同時に、触れ合う唇。

一瞬の出来事に、拓也はポカンとした。

「明けまして、おめでとう」
藤井が言うと、ハッと我に返り、
「ふっ藤井君!」
真っ赤になって抗議する拓也。
「今年最初のサプライズ」
悪戯っぽく笑って、藤井は後藤達の方へ戻って行く。

「もう!」
こんな顔じゃ皆の所に戻れないじゃないか―――!

今年も、藤井君への気持ちで心が溢れそう…

そんな予感を抱いて、手を合わせる拓也だった。

  ~A Happy New Year~



     -2013.01.01 UP-
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