コネコネコネコ スキスキス
「たーくやっ。みのるっ。猫、好きか?」
「キライじゃないけど……」
「スキスキー」
「お邪魔します」の挨拶もナシに、ピンポンが鳴ったかと思ったと同時にリビングに現れた成一。
まぁいつものコトなので、榎木家兄弟は特には気にしないが、ここに春美がいたら彼の脳天にゲンコツの一つは飛んできていただろう。
「ジャーン♪」
その成一の手には1匹の子猫。
「うわーどうしたの、そのねこー」
喜々と声を弾ませる実をよそに、拓也には嫌な予感がよぎる。
昔、同じようなことがあったゾ、と。
「うちの店の裏側に住み着いちゃってよー。流石に食いもん扱う店だからさ。貰い手見つかるまでスタッフ内で面倒見ることになって、今俺ン家いるわけ」
「ふーん。大変だね」
この続きの展開は、これまでの成一と自分の関係上、目に見えている。
なので敢えて当たり障りのない、他人事のような言葉で拓也は相槌を打った。
「明日の夕方まで預かって」
「ヤだよ」
ほらきたこの展開!
「拓也~、お前いつからそんな無慈悲な性格になったんだ~」
「兄ちゃー、かわいいよぉ?」
可愛くないデッカイ大人と可愛いチッサイ弟と子猫がズズイッと顔を並べてウルウルと瞳を潤ませて拓也に迫る。
「実、昔のテブラデスキーのこと忘れたか。預かりもの逃がしちゃったの誰だったっけ?」
「ちゃんとはおぼえてないけど。インコだったんでしょ?だいじょうぶだよ〜ねこ、とばないし」
「成一さん、何で面倒見れないのっ?」
「今から明日の夕方まで、一家でお出かけ。じじいとばばあも留守」
さっきまでのウルウルお目目はどこへやったか、今度はへらっと笑ってそれぞれ返事をする二人に、仏心は出すものかと、拓也も頑張る。
「実はこれから、学校のお友達と約束があって出かけるんじゃなかったっけ?成一さんは、何で出かけるの分かってて猫連れてくるのっ」
「だから、おうちかえってきたら、おせわ僕がやるよー」
「たまたま世話当番回ってきたのがかち合っちゃったんだよー」
「そんなの、理由言って、他の人に変わってもらえば…」
「まあまあ、ちょっと抱いてみ?」
実の腕の中でゴロゴロと喉を鳴らしていた子猫をヒョイと抱き抱え、拓也の腕の中へフワリと寄越す。
両の手の上に乗せればまだそれだけでスッポリと収まる小さい子猫は、その大きな瞳で拓也を見上げ、「ニャーン」と一声鳴いた。
「…………っ」
「こんなちっちゃい子が、家に1匹で置いてかれたら…可哀想だよなー」
「お向かいから、この子のなきごえ聞こえたら、気になっちゃうよ兄ちゃん!!」
「う…ぁ……っ、」
(ほら、ここでもう一声)
成一が子猫の喉をすっと撫でた。
「ニャーン」
そして、拓也の掌にスリンと頬ずり。
「ひ、一晩だけだから…」
「サンキュー拓也!」
「兄ちゃんありがとー!!」
「絶対明日、迎えに来てよ!!」
根負けした拓也の中で「お前はまた成一に利用されて…」と項垂れる父親と、「お人好し」と呆れる藤井の姿がよぎった。
「ほー、コイツで、予定変更して、俺はお前んちに呼ばれることになったんだな」
子猫を預かることになった拓也は、家を空けるわけにもいかず、取り敢えず藤井を自宅へ呼んだ。
呼ばれた理由を電話ではしどろもどろとして濁す拓也に、「また何か厄介事を抱えさせられたか」と訝しむ藤井がインターホンを鳴らして、そのお出迎えに現れたのは、作り笑いをしている恋人と胸元に抱き抱えられていた子猫だった。
「課題ならうちでも出来るし、丁度良く実も出かけてていないし、だったらわざわざ図書館行かなくてもいいかなーって」
英和辞書を開き、該当の単語を探しながら、拓也は言い訳をする。
「それに、この子可愛いよー」
元々動物が嫌いではない拓也も、藤井を待っている間にすっかり子猫にホダされてしまい、見つけた単語の訳をノートに書き写した後、シャーペンを置き満更でもなくジャレつく子猫を撫でた。
「でも、ちょっと…やっぱり捗らない…かな?」
ひと撫でして満足させてやるのも束の間、すぐに「構ってー」と言わんばかりに、教材を広げた折り畳みテーブルの上や膝の上に乗ったり、消しゴムや付箋にジャレつく。
「わ、コラ、くすぐったい」
拓也の首筋にスリスリと頬ずりする子猫を藤井はじっと見つめる。
「俺にも貸して」
「藤井君、猫ヘーキ?」
「苦手だったら帰ってるよ」
それもそうか、と拓也は隣に移動してきた藤井に子猫を預ける。
喉元を人差し指でさすると、気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らした。
「可愛いでしょ」
「まーな」
子猫をさすっていた手を、ニコニコと自分の手元にいるそれに笑みを浮かべる拓也の顎下に移動させる。
「でも、俺は、こっちのが可愛い」
そのまま、上を向かせて掠めるキス。
「ふじ…っ」
慌てる拓也の目線の先は、藤井の膝の上の子猫。
拓也と目が合った子猫は「ニャーン」と無邪気に鳴いた。
「お前は見るな」
そんな子猫の目の上に、軽く掌を覆い被せて、もう一度…ならず、二度三度。
「猫に触れさせるくらいなら、俺にも触らせろよ」
「な…、何言って…っ。この子にヤキモチ!?」
「煩い。コイツに色気振り撒くお前が悪い」
「そんなの振り撒いてなっ、んんー」
しかし、子猫の目を覆う藤井の掌に猫パンチを喰らうまでに、数分とかからなかったとか。
-2014.02.25 UP-
「キライじゃないけど……」
「スキスキー」
「お邪魔します」の挨拶もナシに、ピンポンが鳴ったかと思ったと同時にリビングに現れた成一。
まぁいつものコトなので、榎木家兄弟は特には気にしないが、ここに春美がいたら彼の脳天にゲンコツの一つは飛んできていただろう。
「ジャーン♪」
その成一の手には1匹の子猫。
「うわーどうしたの、そのねこー」
喜々と声を弾ませる実をよそに、拓也には嫌な予感がよぎる。
昔、同じようなことがあったゾ、と。
「うちの店の裏側に住み着いちゃってよー。流石に食いもん扱う店だからさ。貰い手見つかるまでスタッフ内で面倒見ることになって、今俺ン家いるわけ」
「ふーん。大変だね」
この続きの展開は、これまでの成一と自分の関係上、目に見えている。
なので敢えて当たり障りのない、他人事のような言葉で拓也は相槌を打った。
「明日の夕方まで預かって」
「ヤだよ」
ほらきたこの展開!
「拓也~、お前いつからそんな無慈悲な性格になったんだ~」
「兄ちゃー、かわいいよぉ?」
可愛くないデッカイ大人と可愛いチッサイ弟と子猫がズズイッと顔を並べてウルウルと瞳を潤ませて拓也に迫る。
「実、昔のテブラデスキーのこと忘れたか。預かりもの逃がしちゃったの誰だったっけ?」
「ちゃんとはおぼえてないけど。インコだったんでしょ?だいじょうぶだよ〜ねこ、とばないし」
「成一さん、何で面倒見れないのっ?」
「今から明日の夕方まで、一家でお出かけ。じじいとばばあも留守」
さっきまでのウルウルお目目はどこへやったか、今度はへらっと笑ってそれぞれ返事をする二人に、仏心は出すものかと、拓也も頑張る。
「実はこれから、学校のお友達と約束があって出かけるんじゃなかったっけ?成一さんは、何で出かけるの分かってて猫連れてくるのっ」
「だから、おうちかえってきたら、おせわ僕がやるよー」
「たまたま世話当番回ってきたのがかち合っちゃったんだよー」
「そんなの、理由言って、他の人に変わってもらえば…」
「まあまあ、ちょっと抱いてみ?」
実の腕の中でゴロゴロと喉を鳴らしていた子猫をヒョイと抱き抱え、拓也の腕の中へフワリと寄越す。
両の手の上に乗せればまだそれだけでスッポリと収まる小さい子猫は、その大きな瞳で拓也を見上げ、「ニャーン」と一声鳴いた。
「…………っ」
「こんなちっちゃい子が、家に1匹で置いてかれたら…可哀想だよなー」
「お向かいから、この子のなきごえ聞こえたら、気になっちゃうよ兄ちゃん!!」
「う…ぁ……っ、」
(ほら、ここでもう一声)
成一が子猫の喉をすっと撫でた。
「ニャーン」
そして、拓也の掌にスリンと頬ずり。
「ひ、一晩だけだから…」
「サンキュー拓也!」
「兄ちゃんありがとー!!」
「絶対明日、迎えに来てよ!!」
根負けした拓也の中で「お前はまた成一に利用されて…」と項垂れる父親と、「お人好し」と呆れる藤井の姿がよぎった。
「ほー、コイツで、予定変更して、俺はお前んちに呼ばれることになったんだな」
子猫を預かることになった拓也は、家を空けるわけにもいかず、取り敢えず藤井を自宅へ呼んだ。
呼ばれた理由を電話ではしどろもどろとして濁す拓也に、「また何か厄介事を抱えさせられたか」と訝しむ藤井がインターホンを鳴らして、そのお出迎えに現れたのは、作り笑いをしている恋人と胸元に抱き抱えられていた子猫だった。
「課題ならうちでも出来るし、丁度良く実も出かけてていないし、だったらわざわざ図書館行かなくてもいいかなーって」
英和辞書を開き、該当の単語を探しながら、拓也は言い訳をする。
「それに、この子可愛いよー」
元々動物が嫌いではない拓也も、藤井を待っている間にすっかり子猫にホダされてしまい、見つけた単語の訳をノートに書き写した後、シャーペンを置き満更でもなくジャレつく子猫を撫でた。
「でも、ちょっと…やっぱり捗らない…かな?」
ひと撫でして満足させてやるのも束の間、すぐに「構ってー」と言わんばかりに、教材を広げた折り畳みテーブルの上や膝の上に乗ったり、消しゴムや付箋にジャレつく。
「わ、コラ、くすぐったい」
拓也の首筋にスリスリと頬ずりする子猫を藤井はじっと見つめる。
「俺にも貸して」
「藤井君、猫ヘーキ?」
「苦手だったら帰ってるよ」
それもそうか、と拓也は隣に移動してきた藤井に子猫を預ける。
喉元を人差し指でさすると、気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らした。
「可愛いでしょ」
「まーな」
子猫をさすっていた手を、ニコニコと自分の手元にいるそれに笑みを浮かべる拓也の顎下に移動させる。
「でも、俺は、こっちのが可愛い」
そのまま、上を向かせて掠めるキス。
「ふじ…っ」
慌てる拓也の目線の先は、藤井の膝の上の子猫。
拓也と目が合った子猫は「ニャーン」と無邪気に鳴いた。
「お前は見るな」
そんな子猫の目の上に、軽く掌を覆い被せて、もう一度…ならず、二度三度。
「猫に触れさせるくらいなら、俺にも触らせろよ」
「な…、何言って…っ。この子にヤキモチ!?」
「煩い。コイツに色気振り撒くお前が悪い」
「そんなの振り撒いてなっ、んんー」
しかし、子猫の目を覆う藤井の掌に猫パンチを喰らうまでに、数分とかからなかったとか。
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