予定と違うけど案外しあわせです

まだ水泳の授業の方が潔いと思った。
そんな風に考えてしまったのは、俺が健康な思春期男子だからだと…信じたい。


今日の体育の授業は高跳び。普っ通の授業内容だ。
体育は2クラス合同で、普段、壁一枚隔てた向こうの教室で過ごすアイツと、唯一共に受ける授業。
ましてやそれが得意科目となれば、気分も上々、週三とか少なく感じる。

「今日はクラス対抗戦のゲームじゃねぇから、つまんねぇ」

更衣室で着替え中、榎木の隣で着替える宮前がそんなコトを呟いた。

「まあ、バスケやサッカーは盛り上がるけどねー、でもマラソンよりはマシだよー」
もう少し寒くなったら、マラソン期間突入するからヤだなー、と頭にハチマキを巻きながら榎木までもがボヤいている。

小6のマラソン大会で3位という成績を修めていながらも、それ以降も「長距離は苦手だ」と榎木は言う。
確かに、中学に上がってからの榎木のマラソン大会の成績は、1年・2年と20位台前半くらいだったが、それでも男子90余名はいる中での成績だから、恥じることもないと思う。

「じゃさ、今回は個人戦ってコトで、拓也と藤井、どっちが高く跳べるか?」
「ちょ、ちょっとゴンちゃん!勝手なコト言わないでよ!! ねえ藤井君?」
「全くだ」

そんな下らないことを言い合いながら運動場へ移動するのも、俺には貴重な時間。

「んじゃー、榎木の身軽さに俺チ○ル~」
「俺もうま○棒」
「なんだよ、宮前も広瀬も拓也かよ。じゃあ、俺は身長差で藤井。というわけで、頑張れよ、藤井!!」
後藤がポンと肩を叩いて勝手なこと言いやがるもんだから、「知らねー、跳べるモンは跳ぶし、跳べんモンは跳ばん」と適当に応えた。



準備運動の後に軽くトラックを流すと、まだ季節柄ジャージ着用は暑くなり、授業前半で殆どの奴らが上に着ていたジャージを脱ぎ捨て半袖短パンの体操着になる。

クラス別に整列させられて自分の順番が来るまで地面に座って待機になるわけだが、先に俺らのクラスがやった後に、榎木のクラスになる。
ただ待ってるだけの時間は段々とダレてくるのが当然だが、それでも、スポーツ万能なヤツや普段から目を惹くヤツが跳ぼうとなると、注目は集まるワケで。


「次ー、榎木」
「はい」

本人は自覚していないが、榎木もそんな注目される側なのは、ギャラリー側にいるとよく分かる。
純粋に記録を意識している奴もいれば、別の...目の保養的な...そんな輩も少なからずはいる訳で。

定位置について、スタートして…ジャンプ…って!
あンの、バカ!


何で体操シャツの裾 短パンに入れてないんだよ……っっ!!


綺麗な弧を描いて、背面からバーを越えて、しなやかな身体がマットに沈む様は、俺にはスローモーションのように見えたワケだが。

全体のフォームの綺麗さもさながら、しっかり見えてしまった、脇腹・ヘソ。
そこからの、さっきまで意識していなかった…スラッと伸びた脚までもが、何だか艶かしく見えてしまう。

そして気付く、俺以外にも榎木を目で追っている連中の多さ!!
(既に次のヤツの番になってるっていうのになっ!!)

「たっ、拓也!!」

そんな危険な視線に晒されていることに気付いた後藤は、クラスの壁を越えて榎木に近づくと「裾入れろよ!!」と榎木のシャツを短パンの中に突っ込んだ。
羨ましいが、これが許されるのは榎木の親友だと自他共に認める後藤だけだ(他のヤツがやろうモンなら、間違いなく袋だ)。
グッジョブ後藤!

「えー、何で」
「何でも!ホントは下もジャージ履きやがれと言いたい」
「やだよ、暑いモン」

野郎共のそんな視線に気付く筈もなくブーたれる榎木は、それはそれで可愛いのだが。


散々拝んだ夏の水泳の授業よりも、チラリズムの破壊力の方が断然凄まじいことを知った。

そんな俺は、正常だと信じたい。
(そして、困る反面しあわせだとも感じる末期な俺)



         -2013.11.15 UP-

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Title:確かに恋だった様より拝借
  (『ラブコメで20題』より)
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