Happy HAPPY BIRTHDAY!!

―――誰かの誕生日が嬉しい事って、ありますか?


「一加はさぁ、誕生日って嬉しいもん?」
「…は?」

リビングでお気に入りのマグカップでココアを飲みながら少女マンガを読んでいた一加は、高校一年になった兄の突然の質問に呆気に取られた。

「あ、昭広兄ちゃん…相変わらず突然にすっとんきょうな質問ぶっ込むわね…」
「すっとんきょうか?」
きょとんとした顔で妹を見遣る兄に、一加は「この兄やっぱり理解不能だわ」と確信しつつも、質問に答える。

「そりゃぁ嬉しいわよ。だって、大人に一歩近付くのよ?」
「一加は早く大人になりたいのか?」
「勿論!早く大人になって、実ちゃんと大人なお付き合いするのが私の夢だもの!! その為に、今もこうして勉強してるんだから!」
と、力説して見せて来たのは今程読んでいた少女マンガ。
女子小中学生の間で人気らしいタイトルのコミックスだった。

「んなモンが勉強になるかよ」
と、呆れ気味で言うと
「あら失礼ね。いろんな人物の心情や葛藤、恋の駆け引きまで勉強出来ちゃうんだから」
と、一加は自慢げに言う。

「あ、でも、大人になっちゃうと、誕生日って嬉しくないみたいよね…明美姉ちゃーん」
「何ー?」

結婚して家を出ている一番上の姉、明美は今日は旦那様が出張だとかで、たまたま実家に帰って来ていた。
だが、今も〆切りに追われる小説家の母の姿を見て、長年藤井家の家事を担って来た姉は、実家に帰って来ても結局家事をやってしまう哀しいサガ。
乾いた洗濯物を畳もうと、それが入っているカゴを抱えてリビングに入って来た。

「昭広兄ちゃんが、誕生日嬉しい?って」
カゴを床に下ろそうとした明美は動作を止めて、ソファーに座っている弟を見遣る。

「昭広…」
「な、何だよ」
嫌な予感に藤井は若干逃げ腰になる。
「あんたレディに対してつまらない質問するんじゃないわよ!愚問よ愚問!! 罰として、この洗濯物畳みなさい」
「はぁ!?」
カゴを弟に押し付け「全く相変わらずデリカシーないわね!」とリビングを出て行く。
「おい、一加…」
「あ、私、お風呂入る!」
じゃ!と、一加もリビングを出て行き、大量の洗濯物と共に藤井だけが一人残された。

「クッソ、何なんだよ全く!!」

ぶつぶつ文句を言いながらも洗濯物を畳んでいると、ケータイにメールの着信音が鳴った。

「?」

ケータイを開くと、榎木拓也の文字。

『今から外 出られる?』

大丈夫なら、公園に来て欲しいという内容。

「…………」
途中になっている大量の洗濯物を見る。

『30分程待ってて』

そう打ち込むと、送信ボタンを押した。



洗濯物を高速で畳み、急いで公園へ行くと、拓也がベンチに座って待っていた。
「ワリ、待たせた」
「ううん、こっちこそ夜遅くに突然ごめんね」
いつもの笑顔で迎えてくれる拓也に、走って来た疲れも一瞬で飛ぶ。

「どうした?」
「あ、うん、あのね…」

少し照れた様子で差し出された紙袋。

「一日早いけど、お誕生日おめでとう!」

「………え?」

「あ、えっと、流石に当日は、おうちでお祝いかなぁって思って…」

迷惑だったかな?と、拓也はちょっと困惑気味に、固まっている藤井を見上げる。

「いや、違う!」

言うのと同時に、拓也の腕を引き寄せる。

「ふ、藤井君!?」
「すっげ嬉しー…」

そして、ギュッと抱きしめていた。



ベンチに並んで座って、袋を開ける。
中身は、数個のカップケーキ。
「普通のケーキより食べやすいかと思って…」
「もしかして、手作り?」
「僭越ながら…」
はにかみながら拓也は答える。
「マジかぁ、いつもながらすげぇな...食ってもいい?」
「え、今から!? ...どうぞ」
「頂きます」
袋から一つ取り出して、一口頬張る。
「ん。美味い」
「よかったぁ」
緊張の面持ちから変わってホッと胸を撫で下ろす拓也に、藤井は、ほらお前も、と一つ差し出す。
「え、僕はいいよ。藤井君にあげたんだから」
「一緒に食った方がもっと美味い」
ニッコリ笑って言われれば、そんな嬉しい事はない。
「じゃ、一つだけ…」
笑顔で受け取り、一緒に頬張る。

「俺ん家はさ、兄弟多いから、誕生日は特に祝ったりしねんだわ。学校も毎年休みだから、友達からも特に祝われた事ないし」
「え?そうなの?でも昔、一加ちゃんのお誕生会はやったよね?」
藤井6兄弟と榎木兄弟までも巻き込んで繰り広げられた、盛大なオママゴト。
「あ、アレは特別…それは置いといて」

拓也の頬に藤井の指が掠める。

「だからさ、明日、よかったら俺と一日一緒に過ごしてくれないか?」

「藤井君…」

頬に触れてる藤井の手に、拓也は自らの手を重ねる。
「僕でよかったら…」

微笑む拓也に藤井は顔を近付ける。
拓也も目を閉じて、ゼロ距離寸前―――…

ピピッピピッ

突然鳴り響くアラーム音。
「あ、」
拓也が慌ててケータイを操作する。

寸前で未遂になり呆気に取られている藤井と、拓也は赤面しながら「ごめん」と謝り改めて向き合った。

そして、藤井の唇に自らの唇を重ねた。

数秒後口付けを解き、ケータイを開いて藤井に時刻を見せる。

「お誕生日、おめでとう」


今日は、君が生まれた、僕の一番嬉しい日―――



      -2013.07.01 UP-
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