君と僕の距離

「ねっ、榎木君、教えて欲しいんだけど…」

「―――え?」

休み時間、同じクラスの女子に尋ねられた事、それは…


「隣のクラスの藤井君って、好きな人いるの?」


そう言う彼女の隣にいるもう一人の女子は、俯いている為表情は見えないが、その所作と髪の間から微かに見える耳の火照り具合から、本来質問の答えを聞きたいのはこちらの彼女の方なのだろうと察する。

ドキッとした。

そんなの…

「さ、さあ…?僕はあまり分からないよ…」

そんなの、僕の方が、知りたい…。

「えー、でも、榎木君 藤井君と仲良いよね?知らないの?」

「そういう話は、僕たちしないから…」

藤井君の好きな、人。

「隠してるとかじゃなくて?」
「本当に知らないんだ。…それに…うん。そうだね。もし知ってても、言えないかな。だって君達だって、自分の知らないところで勝手に好きな人バラされたら、嫌でしょう?」

「あ…」

不意に俯いていた彼女が顔を上げる。

「そう…だよね。有難う榎木君」

「え?」

「私、自分で頑張ってみるね」

「え…と、」

不本意にも、彼女の背中を押してしまった、という事なのかな?

「やっぱり榎木君は、藤井君の一番近くにいる友達なんだね」

ありがとう。
そう言って友人と去って行く前に僕に見せた彼女の笑顔は、とても可愛らしくて。

(お似合い…かも)

そう思ったら、チクリと胸が痛んだ。

「遠いよ…」

だって、藤井君の隣にいていいのは僕じゃない。
きっと彼女の方が、ずっと近い。



放課後、帰り支度をしていると藤井君に廊下の窓から声を掛けられた。

「榎木ぃ。今から図書室付き合えるか?教えて欲しいトコあるんだけど」
「え、うん!待ってて、すぐ行く!」

急いで鞄に持ち帰る物を詰めて、廊下に出る。

「サンキュー」
隣に並ぶと藤井君はそう言って、ニッコリ笑顔をくれた。
それだけで、嬉しくなる。
でも…

「近い…けど、遠い、よね」

今はこうして隣を歩いてるけど。

「は?」

僕がここにいてもいいのは、いつまでだろう…?
いつまで、許される?

「藤井君…今日、誰かに何か言われた?」

「何、」

「"好き"…とか」

チラリと視線だけで隣を見上げる。

「あ、あ―――、」

気まずそうに言葉を濁す藤井君に、変な事聞いたと、少し後悔しかかったその時、

「でも断ったし」

「え」

「つか、こっちにその気もないから正直困るし...お前だってそうだろ?」

「あ…」

「今、彼女とかいらねぇ」

それどころじゃねぇし。
そうぶっきらぼうに言う藤井君は、いつもの藤井君で…。

「そ、そうだよね!」

そんな藤井君が僕は嬉しくて。

(彼女には悪いけど…)

「それに…」
「ん?」

藤井君が何か言おうとして僕を見たけど、目が合うと慌てたように顔を反らされた。

「何でもない!早く図書室行こうぜ!」
「え、藤井君!?」

図書室のある最上階に続く階段を駆け昇る藤井君の背中を追い掛ける。


君と僕の距離。


近いようで遠くて、でも今はこの距離感がせつなくも心地良い。

そう思って甘んじている僕は、ズルイのかもしれない。

だって、藤井君を好きな人はきっと沢山いる。

それなのに僕は、今以上 離れる事は勿論、近付く事も恐くて出来ないんだから―――。





「ところで、何で知ってるんだ?」
「え?」
「その…告られた事…」
「あ、えと…」
「…………」
「…………」
「…っ、まいっかぁ!で、この問題なんだけど!」
「う、うん!どれどれ?」



      -2013.05.14 UP-
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