Your Name , My Name...

「藤井君」

課題の数式を解いてる途中で話し掛けられた為、視線をノートに向けたまま、手も休めず声だけで返事をした。

「何だ?」

「…………」

(?)

何でもなかったのか、特にその続きが発せられる事もなく。

途中だったその問題の答えを書き終えたタイミングで、また声を掛けられた。

「ふじーくん」

「だから何だ?」

今度は顔を上げて、榎木を見て―――


「呼んでみただけぇ」

目が合って見せられた、ホワンとはにかんだ笑顔とその言葉が、何ともこう…


シャーペンを握りしめ、思わずうち震える。

(構い倒したくなるじゃないか)

「呼んでみただけぇ」で満足したのか、スッキリした顔で今度は榎木が設問とにらめっこをしている。

少し難解な問いに小首を傾げて、それでも何とか一問解いたタイミングで、こちらも呼んでみる。

「えの…」
言いかけて、呼び直し。

「拓也」

「!?」

凄い勢いで上げられた顔は、赤面した驚きの顔。

「なっ名前…っ」
「嫌だった?」
ちょっと遠慮気味に聞いてみたら
「…………っ」
無言で勢いよく首を左右に振る。
「び…びっくりした…」

そんな榎木に向かって

「呼んでみただけ」

と笑顔で同じ台詞を返す。


「…名前呼ぶなんて、ズルイ」

赤い顔して睨んで来るから、ますます意地悪したくなる。

「俺の事も呼んでみてよ、名前」
「え…っ」

これ以上にない位に真っ赤になって、さて、言ってくれるか…

「あ、あき……っ」

じっと見つめていると、意を決したように息を吸い込み、

「―――…あきちゃん!!」


そっちか!!
「…お前、それはやめろと…」
幼少時代の俺の呼び名。
「だ…だって…」
真っ赤な顔して逃げやがって。

たかが名前、されど名前。
お互いずっと名字で呼んできていると、より特別に感じてしまう。

シャーペンを持ったままの手をグイっと引っ張って耳元で言ってやる。

「拓也」

すると力が抜けたのか、持っていたシャーペンをポトリと落として、肩に熱くなった顔を埋めて来た。


さて、構い倒そうじゃないか。

手始めに、軽い口付けを…―――。



      -2013.04.24 UP-
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