無邪気なフリして実はドキドキ…なのかもしれない。

「ん…」
あれ?寝ちゃってた…って今何時!?
図書室の壁時計を見ると
「4時半!?」

ガタッと慌てて立ち上がると、足元にパサッと何かが落ちた。

「?」

拾い上げるとそれは一着の学ランだった。
自分のは着てるから…と、裏地に入っている筈のネーム刺繍を確認して驚いた。

(藤井君…!!)

「あ、榎木、起きたか?」
「え…あ…」
進路指導担当でもある図書委員会の顧問の先生に声を掛けられた。
「あと30分で閉館時間だから、そろそろ帰り支度しろよ」
「す、すみません!すぐ帰ります!」
「まあ…あまり根詰めるなよ。お前の成績なら然程心配ないし…油断はイカンがな」
「ありがとうございます。さよなら!」

慌てて帰り支度をして学校を出る。
片腕には藤井君の学ランを持って。



「ごちそうさま」
夕飯を食べ終え、すぐさま食器をシンクへ運ぶ。
「すぐ部屋行くか?」
「うん」
図書室でやる筈が、爆睡しちゃってたから取り戻さなきゃね...。
「あんまり無理するなよ」
「兄ちゃんお勉強がんばれー」
「ありがとう実、パパ」

夕食の後片付けは、僕が受験生になってから、実がパパの手伝いをするようになった。
実も少しずつ頼りになるようになってきたかも。お使いも行ってくれるしね。

そして今日の僕は、勉強の前にやらなきゃいけない事がある。
アイロンを持って自室へ戻り、アイロン台に藤井君の学ランを広げた。

藤井君…いつ図書室来たんだろう…
起こしてくれても良かったのにな…
でも…学ラン掛けてくれたんだよね…


ドキドキドキドキ…


恐る恐る、藤井君の学ランに腕を通してみる。

ふわっと藤井君の匂いに包まれトクンと心臓が跳ねた。

「わっ、やっぱ僕のよりおっきいー…」
コンコン!
突然のノック音。
「おーい拓也、アイロン知らんかぁ?」

――――!!

「いっ今!使ってるー!!」

急いで学ランを脱いで、部屋の外へ顔を出す。

「部屋でか?」
「う、うん。すぐ持ってくから」
「別に急ぎはしないが…何かあったか?」
「な、何も!?」
「……そっか、ま、煮詰まったら相談しろよ?」
「な…何を…?」
「まーまー」
「?」

困惑してる僕にパパはニコリと笑って、じゃ、アイロン頼んだぞと下へ降りて行く。

ドアを閉めると同時に思わず出た大きな溜め息。

「はぁ―――――っ」

(って、一体僕は何を!!)

慌てて脱いだ藤井君の学ランはベッドの上。
手に取って、もう一度アイロン台に乗せて、今度こそアイロンを掛けようと霧吹きを吹き付ける。

「ごめんね…藤井君…」

赤面しつつ、ポツリと一言。
自分がした事の恥ずかしさから、何となく謝りたくなった。
しっかりプレスして、明日返さなきゃね。



次の日―――。

藤井君に学ランを返す為に声をかけて、少し話をした。
すると、トイレに行くと踵を返して行ってしまったので、もう一度お礼を言う。
「学ランありがとねー!!」
トイレへと走る藤井君は、振り向かずに手を振って反応を返してくれた。

良かった…ちゃんとお礼言って返せた。
会話も…ちゃんと出来てたと…思う。

だから藤井君、気付いてないよね?


―――好きな人の学ランにドキドキしてた…なんて。





      -2013.04.11 UP-
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