天然タラシの称号を授けよう。

「どうぞ」
「サンキュー」

自室の小さなローテーブルの上にマグカップを置いて、自分の分を口にしながら、拓也は座る。
後藤は拓也の机の脇に立ち、その上にあった英語の教科書をぺらぺらめくっていた。

「うひゃー流石進学校。やっぱ授業内容違うんだなぁ」
「そんなに違う?」
「明らかに教科書の1ページの記載量が違う。何このギッチリ詰まった英文」
そこには細かい字で長文の英文が、ズラズラと所狭しと載っていた。
見ただけで訳すのも嫌になる。
「でも、ゴンちゃんも商科だから、専門学とかあるでしょ?」
「まあ…簿記とかな」
「僕はそっちの方が凄いと思うよ」
ニッコリ笑って「専門学ってなんかカッコイイ」とのほほんと言う。
そんな相変わらずな雰囲気の親友に、後藤も笑って
「この英文訳すよりは簡単なモンだけどな」
コーヒー頂きます、と拓也の向かいに座ってマグカップに口を付けた。


今日は、珍しく部活が休みの休日という事で、拓也の家に遊びに来た後藤。

「こうして拓也と二人で会うの久しぶりだな」
「そうだね、部活大変?」
「おぉ!やっぱ強豪校の部活はシンドイぜ」
その分やり甲斐もあるけどな、とシンドイと言うもののまんざらでもなさそうな後藤に、
「充実してるんだね」
と拓也は後藤の気持ちを汲み取る。
「まあな」
空手で鍛えられた後藤は、身体付きもガッチリとして、とても逞しくなった。

「拓也は?」
「僕も学校楽しいよ」
友達もみんないい人達だし。

「ゴンちゃんいたら、もっと楽しいと思うけど」

サラっと言う。
拓也にとってそれは、純粋に小・中とずっと一緒にいた親友に向けた素直な気持ちなのだが、高一男子が言う台詞かと思うと、言われた方は照れる。

「拓也…」
少し赤面気味な後藤に対し
「?何?」
拓也は素で返事をする。
「お前、相変わらず天然だなぁ」
「は?」
「普通そんな事、照れて言えねー」
「えー、だって本当の事だし」
天然なんて失礼な!と心外だと言わんばかりに頬を膨らます。

(そういう態度も…)
拓也の事を理解している後藤は苦笑いしながら
(こりゃ藤井も大変だ)
と、この天然を恋人に持つ幼なじみを思った。

「そういや、今日藤井は?」
ふと、後藤は思考に入り込んだその幼なじみを口にしてみる。
「さぁ…?森口君とでも会ってるんじゃない?」
森口君ともたまに会ってるみたいだし。
「森口かぁ…アイツらもずっとつるんでるよな」
中学違ったのに付き合い続くって、俺らより凄いよな。
「そうだね。僕も藤井君いなかったら、森口君ともっと疎遠になってたと思うし…でも」

拓也はコクっと一口コーヒーを飲んで


「僕とゴンちゃんも、負けないくらい仲良しだもんね」


…だから、何で照れもせずにそんな事サラっと言えるんだコイツは…!!
(本来は照れ屋のクセに!!)

「…拓也…お前に天然タラシの称号を授けよう」

スンとした表情で後藤が言い放つ。
「何で!!」
「上目遣いでそんな事言われたら、誰だって勘違いするっつーの!!」
「勘違いって?」
「………っ」
素で「何で?」と疑問符を浮かべる親友に少々呆れ気味の後藤。


「ゴンちゃんだから、なのにー」
誰にでも言ってる訳じゃないよ。
「…分かってるよ」
拓也はそういう奴だよな、昔から。
素直で、自分の思いを真っ直ぐぶつける。
そういう所に、みんな惹かれるんだ…良い意味でも悪い意味でも。


「ゴンちゃん、これからもよろしくね」
カップを掲げて満面の笑顔で改まる拓也に
「こちらこそ」
と自らのカップを拓也のそれにカチンとぶつけながら

(藤井…同情するよ。頑張れ)
と心の中でエールを贈ると同時に
(今日の事は、ぜってぇヤツには言えない)
と思う後藤であった。



――二人の騎士に護られている事を、天然王子は知らない――



       -2013.02.27 UP-
1/1ページ
    スキ