Heidenroslein
風もなく、穏やかな午後。
こんな日のお昼休みは昼寝がしたい、という事で、今日は皆とは別行動で屋上へ。
弁当でお腹を満たした後、フェンスに背中を預けて脚を投げ出して座っている拓也の膝の上に、頭を預けて眠る藤井。
拓也はというと、今度の選択授業――音楽の授業で行われる、楽典のテスト勉強の為、教科書を眺めていた。
(高校の音楽で、結構本格的な事やるなんて知らなかった…)
音楽系の習い事をしていた訳ではない者にとっては正直難しいし、どうでもいい知識。
でもテストとなっては、真面目な拓也としては無視出来る筈も無く…。
(でも美術は絶対取りたくなかったし)
相も変わらず図工系には苦手意識のある拓也。
因みに藤井は美術選択で、唯一共に過ごさない授業である。
「ツェー(C)・デー(D)・エー(E)・エフ(F)・ゲー(G)・アー(A)・ハー(H)」
目を閉じて今頭に入れた音名を暗唱する。
分かりやすく言うと「ドレミファソラシ」、日本語で言うと「ハニホヘトイロ」。
「ドレミ」は日本語でなく、イタリア又はフランスでの音名。
(混乱するなぁ、もう)
らしくもなく、少しイラッとして来た拓也の頬に、さぁっと風が撫でた。
(あ…気持ちいい)
芽生えたイラつきが少し抑えられ、目を開く。
そのまま視線を落とすと、膝の上で好きな人がすやすやと眠っている。
前髪が風に揺られている様子を見て、思わずそれに触れた。
拓也のサラサラの髪質とは違い、少し固めの髪。
背の高さの違いのせいもあるだろうが、藤井はよく拓也の髪を触るのに対し、拓也はあまり藤井の髪に触れる事がないなぁと気付く。
いつも触れられるように、拓也も藤井の頭を撫でる。
そうしていると、イラつきもすっかり癒され、今度は声楽課題の曲が無意識に口をついて出た。
♪Sah ein Knab' ein Roslein steh'n,
Roslein auf der Heiden~…♪
「何の歌?」
ハッと気付くと、藤井が目を細めた笑みで、拓也の顔を見上げていた。
「あ、ゴメン…起こしちゃった」
「んーいいよ。榎木の歌、心地いい…」
「や、やだな…下手っぴなのに…」
歌い慣れないドイツ語での歌に、余計羞恥を覚える。
「選択音楽、結構大変なんだな」
藤井はよっと脚を振り上げ、立ち上がる。
そのまま伸びをして欠伸を一つ。
「美術は?」
「簡単だぜ?期限内に作品仕上げて提出するだけだから」
「僕にはそれが苦手なんだよ…」
知ってるでしょ?と苦笑する拓也。
「全てそつなく熟す榎木が、唯一苦手とする物だもんなー」
手を伸ばして、拓也の手を掴み引いて、拓也も立たせた。
「でも音楽も苦手になりつつあるよ」
ありがとうと言いながら、見てコレと手にしてた教科書を見せる。
「うわっ俺には無理」
音楽用語だけとはいえ、ドイツ語やらイタリア語やらがギッシリと書き込まれている。
「ドレミで十分だよね」
なかなか頭に入らなくて…と溜め息を吐きながらごちる拓也だが、主要科目でもないのに手を抜けないところが彼らしいと、藤井はあやす様に軽くポンポンと拓也の頭を撫でた。
「でも、さっきの。"野ばら"だっけ、日本語のは中学ん時歌った覚えある」
「うん、そう。今度ドイツ語で歌のテスト」
藤井はお得意の…拓也は気付いてないが、いつも拓也を揶揄う悪戯な笑顔で
「また聴きたい」
と言ってみる。
「やっ、ダメ!!下手だし!!」
真っ赤になって両手を顔の前で振る拓也。
「上手かったよ」
「無理ムリむり!!」
予想通りの反応に藤井はクスリと笑い、耳元で
「今度カラオケ行こっか」
と誘う。
「それでマイクで歌って貰う♪」
「藤井君!!」
言葉と共にふっと息を吹き掛けられ、耳を押さえて慌てる拓也。
丁度その時、予鈴が鳴り響く。
「教室、行くゾ」
すっかりご機嫌な顔でほら早く、と拓也の手を取り歩き出す。
未だ顔を火照らしている拓也は、「カラオケ行かないからね!」と抵抗するが、「じゃあアカペラで」と楽しそうに返された。
何を言ってもダメだと悟り溜め息を吐き、うっかり口ずさんでしまった自分を恨めしく思う拓也だった。
-2013.02.16 UP-
こんな日のお昼休みは昼寝がしたい、という事で、今日は皆とは別行動で屋上へ。
弁当でお腹を満たした後、フェンスに背中を預けて脚を投げ出して座っている拓也の膝の上に、頭を預けて眠る藤井。
拓也はというと、今度の選択授業――音楽の授業で行われる、楽典のテスト勉強の為、教科書を眺めていた。
(高校の音楽で、結構本格的な事やるなんて知らなかった…)
音楽系の習い事をしていた訳ではない者にとっては正直難しいし、どうでもいい知識。
でもテストとなっては、真面目な拓也としては無視出来る筈も無く…。
(でも美術は絶対取りたくなかったし)
相も変わらず図工系には苦手意識のある拓也。
因みに藤井は美術選択で、唯一共に過ごさない授業である。
「ツェー(C)・デー(D)・エー(E)・エフ(F)・ゲー(G)・アー(A)・ハー(H)」
目を閉じて今頭に入れた音名を暗唱する。
分かりやすく言うと「ドレミファソラシ」、日本語で言うと「ハニホヘトイロ」。
「ドレミ」は日本語でなく、イタリア又はフランスでの音名。
(混乱するなぁ、もう)
らしくもなく、少しイラッとして来た拓也の頬に、さぁっと風が撫でた。
(あ…気持ちいい)
芽生えたイラつきが少し抑えられ、目を開く。
そのまま視線を落とすと、膝の上で好きな人がすやすやと眠っている。
前髪が風に揺られている様子を見て、思わずそれに触れた。
拓也のサラサラの髪質とは違い、少し固めの髪。
背の高さの違いのせいもあるだろうが、藤井はよく拓也の髪を触るのに対し、拓也はあまり藤井の髪に触れる事がないなぁと気付く。
いつも触れられるように、拓也も藤井の頭を撫でる。
そうしていると、イラつきもすっかり癒され、今度は声楽課題の曲が無意識に口をついて出た。
♪Sah ein Knab' ein Roslein steh'n,
Roslein auf der Heiden~…♪
「何の歌?」
ハッと気付くと、藤井が目を細めた笑みで、拓也の顔を見上げていた。
「あ、ゴメン…起こしちゃった」
「んーいいよ。榎木の歌、心地いい…」
「や、やだな…下手っぴなのに…」
歌い慣れないドイツ語での歌に、余計羞恥を覚える。
「選択音楽、結構大変なんだな」
藤井はよっと脚を振り上げ、立ち上がる。
そのまま伸びをして欠伸を一つ。
「美術は?」
「簡単だぜ?期限内に作品仕上げて提出するだけだから」
「僕にはそれが苦手なんだよ…」
知ってるでしょ?と苦笑する拓也。
「全てそつなく熟す榎木が、唯一苦手とする物だもんなー」
手を伸ばして、拓也の手を掴み引いて、拓也も立たせた。
「でも音楽も苦手になりつつあるよ」
ありがとうと言いながら、見てコレと手にしてた教科書を見せる。
「うわっ俺には無理」
音楽用語だけとはいえ、ドイツ語やらイタリア語やらがギッシリと書き込まれている。
「ドレミで十分だよね」
なかなか頭に入らなくて…と溜め息を吐きながらごちる拓也だが、主要科目でもないのに手を抜けないところが彼らしいと、藤井はあやす様に軽くポンポンと拓也の頭を撫でた。
「でも、さっきの。"野ばら"だっけ、日本語のは中学ん時歌った覚えある」
「うん、そう。今度ドイツ語で歌のテスト」
藤井はお得意の…拓也は気付いてないが、いつも拓也を揶揄う悪戯な笑顔で
「また聴きたい」
と言ってみる。
「やっ、ダメ!!下手だし!!」
真っ赤になって両手を顔の前で振る拓也。
「上手かったよ」
「無理ムリむり!!」
予想通りの反応に藤井はクスリと笑い、耳元で
「今度カラオケ行こっか」
と誘う。
「それでマイクで歌って貰う♪」
「藤井君!!」
言葉と共にふっと息を吹き掛けられ、耳を押さえて慌てる拓也。
丁度その時、予鈴が鳴り響く。
「教室、行くゾ」
すっかりご機嫌な顔でほら早く、と拓也の手を取り歩き出す。
未だ顔を火照らしている拓也は、「カラオケ行かないからね!」と抵抗するが、「じゃあアカペラで」と楽しそうに返された。
何を言ってもダメだと悟り溜め息を吐き、うっかり口ずさんでしまった自分を恨めしく思う拓也だった。
-2013.02.16 UP-
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