ランチタイム

「榎木の弁当って、いつも美味そうだよなぁ」

いつもお昼を共にする仲間の一人、小野崎が拓也の弁当箱を覗いて言った。

「自分で作ってるんだっけ?」
「うん、そうだよ」

玉子焼きを口にしながら拓也は返事をする。

「でも、大体夕飯の残り詰めたり、朝作るのは簡単な物だよ」
玉子焼きとかウィンナーとか。

今日の拓也の弁当のおかずは、
アスパラとえのきの肉巻き・玉子焼き・人参のグラッセ・枝豆とコーンのポテトサラダ・プチトマト。
彩りも、赤・黄・緑、と調っている。

「あ、でも今日の玉子焼きは出汁巻きで自信作!」
ちょっと自慢気に言う。
「食べる?」
ニコっと笑って拓也は弁当箱を差し出す。

(ここで食べたら、勇者だな…)

その場にいた小野崎本人を含む8割の人間が思った。

何故ならば、藤井が目の前にいるから。
因みに残り2割は、拓也と藤井である。

藤井は普段割とクールな癖に、拓也の事となると、別人じゃないか?と思うくらい機嫌が左右する。
拓也の手作り弁当を食した日には、どんな目に遭うか。

ところが
「食ってみれば?」

意外に普通にしている藤井。
藤井の様子を伺っていた一同は正直驚いた。

「え…いいのか?」
「榎木の出汁巻き、マジ絶品」
それどころか、拓也の隣でドヤ顔の藤井。

あ…!コイツ…

恋人自慢か…っ!!

(チクショウ、あてられた)
(本当に榎木の事になると、予測がつかねぇ)
(全く…)
そんな藤井に、小野崎と布瀬は呆れ、中橋と穂波は若干引いている。

「じゃあ、頂きまーす」
小野崎は玉子焼きを一切れ頂く。

「うっそ、何コレ マジ美味い!!」
甘すぎず、辛すぎず、出汁と卵の調和が黄金比率とでも言うのか。

「え!!そんなに美味いの!?俺も食ってみたい!!」
と中橋が言う。
玉子焼きは残り一切れ。
他の二人も興味アリと見ている。

「じゃあ、一口ずつになるけど…」
と、拓也はその一切れを3つに箸で割り、他の三人も試食。

「本当、マジ美味いな」
藤井以上にクールな布瀬も感嘆する。
「そもそも、こんな味の玉子焼き食った事ねぇ」
「玉子焼き…奥深い…」
お調子者二人は言わずもがな。

「ここまで辿り着くの、時間かかったんだよー」
満足そうな拓也は、ニコニコしながら言う。

いや、料理人目指していない限りは、普通の男子高校生は辿り着けないから。

と、心の中で一同はツッコむ。

「あー、藤井がいなかったら、俺が榎木の旦那になるのにー」
と穂波が拓也にギュッと抱き着く。

すると、流石にそれは許さんと、藤井が穂波にキックをかました。
「離れろ」
「はい、スミマセン調子こきマシタ」

そんなやり取りを、弁当箱を片付けながら苦笑して見ている拓也。
「さ、そろそろ予鈴鳴るぞ」
と、教室へ帰る準備を促す布瀬の言葉に、仲間達も応えて、屋上を後にした。


放課後の電車の中。
「藤井君、今夜何食べたい?」
「出汁巻きー」
ちょっと甘えたような口調で、昼に自分の口には入らなかったそれを言う。
今夜は春美が出張で不在な為、藤井は夕飯に呼ばれていた。
クスっと笑って「了解」と返事をする拓也。
「じゃあ…和食がいいかぁ…実お肉がいいって言うから、生姜焼きでもしようかな」
冷蔵庫の中身をシュミレーション。

「あ、玉子足りないから、買い物付き合ってね?」
「お安いご用」
帰宅ラッシュで身動きが取れず、視線だけで見上げる拓也に、微笑んで返事をする藤井。
そんな新婚夫婦のような会話に、藤井は抱きしめたい気持ちを抑え、鞄で隠れている事をいい事に拓也の手を握る。

拓也は一瞬ドキっとして「藤井君!」と慌てるが
「こんな満員じゃ、どうせ見えねぇよ」
と藤井に言われ、戸惑いながらも、それもそっかと思い、繋がれた手をギュッと握り返す拓也だった。



      -2013.02.02 UP-
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