declare one's love to you

"今から、会いに行ってもいい…?"

拓也からの突然の連絡と申し出に、内心驚きながら、藤井は承諾した。

午後8時過ぎにその連絡は入り、およそ未成年が他人様の家を訪れるのには少々非常識である時間と、約束無しの突然"会いに行く"発言は、普段の拓也からは想像つかない言動だった。

それでも、藤井家の人々は昔から知る拓也には絶対的な信頼がある為、藤井が家族に拓也が来訪する旨を伝えると、一二もなく快諾された。

そして、今、拓也と藤井は二人で藤井家の男子部屋にいる。

「今日、父さんの代理で実の参観会ヘ行ってきたんだ」
拓也は口を開く。
「あぁ、今日参観日だったな」
藤井の下の妹弟も同じ様に登校し、両親がそこへ出向いた事を思い出した。
「実の担任って、寛野先生なんだよ」
微笑みながら、拓也は言う。
「あー、そうだったっけ」
藤井は、拓也の意図が読み取れず、少々返事に困った。

「面談で、色々話したんだ」
「…………」
黙って拓也の話を聞く。

「ねぇ、藤井君?」
急に真顔になって、顔を向き合わせた拓也の次の発言に、藤井は驚く事になる。

「キス…してもいい…?」

「………榎木…?」

奥手の拓也からは、普段ほぼ絶対聞かれない言葉。

「寛野先生と話して、今、僕は凄く幸せだなぁって実感したんだ」

ゆっくり、ゆっくり、拓也は話す。

「その幸せは、藤井君がいるからなんだ」

言いながら、涙腺が緩んでいくのが分かる。

じわじわと…そして、それに比例するかのように、拓也の心に暖かいものが広がる。

「僕は、藤井君がいて、幸せです」

そう言う拓也の表情はどこか儚げで…

そっと、拓也の手が、藤井の首に回る。

「藤井君…」

静かに、そっと、唇を合わせる。

合わせるだけの口付けだが、藤井にはそれがかえっていつもより官能的に感じて…。

そっと、離れていく唇に、名残惜しさと同時に満足感も与えられたようで、その矛盾が何とも不思議な気分だ、と藤井は思った。

「幸せな恋愛してるって、自信を持って言えるよ」

ニコっと微笑んで、
「ありがとう」
拓也は言った。


「何で、泣く…?」
静かに拓也の頬を伝う雫を、藤井は人差し指で拭う。

「ん…」
瞳を閉じて、溢れる涙は、きっと…

「藤井君を想って、心がいっぱいになると、溢れるんだ…」

次々と紡がれる拓也の甘い言葉に、藤井はクラリと甘い目眩を覚える。

「………」

ただ、拓也を見つめるのがやっとの藤井に、ふふ…と、拓也は笑う。
何となく、バツが悪い気がして、拓也の左側に並んで座り直した藤井は、拓也の頭を自分の右肩に載せるように傾け、ポンポンと触れる。
藤井のその優しい手の動きに、心地良さそうに拓也は目を閉じた。

「今日は…何だか、その…」
「大胆?」
クスッと笑って、拓也は藤井の言いたい事を代弁する。
「……あぁ」
と遠慮がちに返事をする藤井に対して「僕もそう思う」と人事のように笑って答える。

拓也は藤井の肩から頭を上げて、体ごと藤井に向き直る。

「藤井君が、好きです」

シンプルな言葉は、より心に響くもので。
それに対し藤井は何かを言おうとするが、何を言ってもかえって陳腐に感じてしまう気がして。

「ずっと、ちゃんと言ってなかったから…"好き"って…」

気付いてなかったでしょ?と拓也は悪戯っぽく笑う。
「だから、藤井君にちゃんと伝えたかったんだ…僕の素直な気持ち」

「俺も、幸せだから」
黙って拓也の言葉を聞いていた藤井が、言葉を発する。

「俺だって、榎木が好きで、榎木を想うと幸せな気持ちで堪らなくなる」


時に苦しくなるくらい。

「誰かにこんな気持ちになるなんて、知らなかった」
それが、榎木で良かった…


「あぁ、ほら、また…」
藤井が少し困った顔で、拓也の頬に触れる。
そこには、一筋の通り道を付けた雫。


「だ、だって…」
微笑まれて紡がれた言葉は、余りにも嬉しくて。
「本当、涙腺弱いのな」
苦笑混じりに藤井は言う。

「藤井君…」
「ん?」

好きって、苦しくて、幸せだね。

「そうだな」

クスッと笑い合った後、二人の唇が重なり合ったのは言うまでもなく。

唇だけでなく、額や頬、目尻等、啄むようなキスを繰り返す。
決して激しくはない筈のその行為に心は満たされ、二人は穏やかな幸せに包まれるのを感じた。



       -2013.01.31 UP-
1/1ページ
    スキ