horror?sweet?summer vacation!

待ちに待った夏休み。
学生の特権、約1か月半という長い休み、嬉しくないヤツがいるだろうか、否いるわけなかろう。
基本、家で適当に過ごすのがいちばん好きなのだが、うちには煩い盛りのチビが二人もいる。
そんな二人からの構って攻撃を極力避けるべくにも、多少なりとも予定は確保したい。
学校が違う親友の仁志とも久しぶりに遊びたいし、勿論榎木とも。
榎木に至っては「学校の友達とも遊びたいよね!」と級友たちとも盛り上がっていたので、その連中とも幾度か遊びに出かけることにもなるだろう。


そんなこんなの夏休み、今日は昨日から大学のサークルで合宿(という名のどーせただの旅行だろ)とか何とかで、一人暮らしの兄貴が数日部屋を空けると聞いたのは、夏休み入る直前。

「お邪魔しまーす……」
「適当にその辺座って」

そう、旅行になんて行けるお金なんて無いしがない高校生。
これはチャンスだと、兄貴に頼んで部屋の鍵を借りたのだ。
兄貴に借りを作るのは少し癪な感じはしたけども、自分ちはチビ二人、榎木の家にはこれまた榎木にべったりな実がいる。背に腹は代えられない。
俺だって健全な男子高校生。好きな人と誰にも邪魔されず一緒に一晩や二晩過ごしたい。
兄貴には「ここで拓也君と過ごすつもりか? このエロ高校生め」とからかわれたけど、そこは一発お見舞いしといたから水に流す。そのつもりだし。

「何かヘンな感じと緊張もするね。友也さんいないのに、友也さんの部屋にいるって……」

たどたどしく言いながらも、榎木は「へー、これが大学生の住む部屋かー」と興味津々と壁際の本棚に並ぶ学科のテキストやベランダから臨む景色を眺めたりしている。

「ちゃんとキレイにもしてるんだね」

大学近くの学生用のワンルーム。冗談、一昨日ここの掃除をしたのは。

「俺が片付けたの。じゃなかったら兄貴のヤツ、旅行の準備で手一杯にしやがって、大騒ぎだったぜ」

旅行(合宿)の準備をしながらアレどこやったっけ、コレ必要か? などと言いながら部屋の中をひっくり返し荷物を整える兄貴の傍らで「片付けてる先から散らかすなよ!」とその散らばったアレコレを片し、人を呼べる状態にしたのは俺だ。
俺がいなかったら、兄貴は部屋の中をカオスなままで出かけるハメになったんだから、そのことを考えればそれだけでも借りの返済は充分だろと言いたい。

「2泊……くらいはできる……か?」

兄貴が帰ってくるのは5日後。榎木の都合を考えたら(実とか実とか実とか)流石にフルは無理だけど、そのくらいなら。
ベランダに続く窓の脇に立って外を眺める榎木を背中から抱きしめて声を掛けると、榎木は少し戸惑ったような……はにかんだ表情で俺を振り返った。

「……うん。父さんに許可は貰ってあるから……大丈夫」

僅かながらな数日間、二人きりで過ごせると改めて思うと、胸が高鳴る。
ドキドキと、榎木を抱きしめ胸の上でクロスした腕に伝わるその鼓動も俺と同じくらいに速い。
榎木の上気した目元に誘われたんだと思う。俺は殆ど無意識に、榎木の唇に自分のそれを重ねていた――。



夕方に夕飯の買い出しに出た時に、レンタルショップに立ち寄った。
夕飯を食べながら、映画でも観ようかと言うことで。
洋画・邦画といろんなタイトルを眺め、何本かを見繕い。
部屋に戻り、二人で一緒に作ったカレーを食べながら、レビューで評判の良かったコメディー洋画を観た。
今は、榎木はコーヒーをすすりながらまったり部屋にあったマンガ雑誌をペラペラとめくっている。

「榎木、何か真剣に読んでる?」
「んー? 別に、流し読みしてるだけだよ」
「じゃあ、これ観ねぇ?」

顔を上げて返事をした榎木に、さっきこっそり借りたDVDを見せた。

「え、これって……ホラー?」
「そ。ホラー。夏だし」

誰もが知ってるホラー映画のタイトル。邦画。
シリーズ化された人気作品の、いちばん最初のやつ。
やっぱりホラーは洋画より邦画の方が面白い。つか、怖い。
洋画のホラーはまた違う種類の怖さなんだよな。邦画の方がおどろおどろしいっつーか。

「苦手?」
「んー……苦手というか、ちゃんと観たことないかも。ほら、うち、実が怖がりだから、TVの心霊特集とか怖い系の再現ドラマとか絶対観ないし」

実が観ちゃって、その後の怖がりっぷり考えたらめんどくさいしねー、とカラカラ笑って答える榎木。
そっか……、ちゃんと観たことないのか。――決行。

「じゃ、入れるぞー」
「え…っ、うん」

HDDのディスク挿入口にDVDを入れながら横目でチラリと盗み見た榎木の顔は、一瞬焦ったような表情だったが。

「人気作の第1作目のだから……ホラーで人気ってことは結構怖いぞ? 大丈夫か?」
「だっ大丈夫だよっ」

負けず嫌いは健在だった。結構結構。
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