すき・きす・みっつ

「……森口君?」
「今昭広留守ー。上がって待っててって」
「ふーん。お邪魔しまーす」

今週末は特に約束をしていなかったのに、突然呼ばれて藤井宅へ出向いてみたら、呼んだ本人は留守でその代わり、その親友が僕を待ち受けていた。
そもそも、今日は森口君と会う約束があるっていうから、僕は遠慮したのに。

「久しぶりだねー森口君。学校どう?私立の高校ってどんな感じ?」

中学から私立の学校に受験入学した森口君は、高校はエスカレーターでそこの高等部へと進学した。
公立中学から高校受験をした僕たちとは、やっぱり何か違うのかな?

「んー?中身は普通の高校と変わんないんじゃね?ただまあ、メンツは殆ど同じだよなー、外部入学も若干いるけど…だから、代わり映えしないし、新鮮味はないな」
「そうなんだー」

他愛のない世間話をしていると、森口君が改まった口調で僕を呼んだ。

「なあ、拓也?」
「ん?」
「昭広の好きな身体のパーツ3つ答えて」

「……は?」

な、何をイキナリ!?
一瞬思考が停止したけど、すぐに我に返って。

「な、ななな何を言ってるのかな、森口君!!」
「俺、今生徒会執行部で広報担当なんだけどさ」
「へー、流石だね。高校でも役員なんだ」
これで話題を逸らせるかと思ったけど、そうは簡単にいかないのが森口君。
「まあな、1年だから下っ端役職だけどな。で、広報でいわゆる学校新聞?月イチで発行してるんだけど、今度の特集が『付き合ってる人の好きな身体のパーツ』ってーことで、インタビュー♪」
「インタビューって…僕、思いっきり外部の人間じゃん。対象外だよ」
「いいのいいの!同じ高校生だろー?サンプルは多い方がいいし。校内では任意アンケートなんだけど」
「な、何かなまめかしいよ、その特集……」
「何?なまめかしい部分が好きなの?拓也って意外に大た」
「そんなワケないよ!?」

ニヤリと笑って言う森口君の言葉を遮るように否定して。
あーもう、何言ってんだ、僕……。

赤面してしどろもどろしていると、森口君はカラカラと笑って言った。

「そんな難しく考えないでさ、どっかあるだろ、手とか顔とか?あ、でも顔だったら、もっと細かくがいいな。目とか鼻とか」

「言わなきゃダメ?」
未だグズグズとしていると
「教えて欲しいなー。コレで俺の仕事もはかどるしー。ホラ、早くしないと昭広帰ってきちゃうし」
と言われた。
ズルイ!仕事って言われたら、拒否できないじゃないか。

「うー…藤井君はカッコイイから、顔も好きだけど……」
「うんうん」

意を決して、口を開く。

「まずは、手の指。スラッとして長くて、一緒にいると、ついつい手元見ちゃう」
「ほー…次は?」

あーすっごく恥ずかしい。何でこんな事話さなきゃいけないんだ……。
でも、乗り掛かった舟だから、途中下船するわけにもいかない。

「次は……、目?クールだなーって……」
「ふんふん」

次で最後だ。コレで、この拷問の時間も終わる……そうだよ、コレって一種のセクハラであり拷問だよね?

「3つ目は――――……」
「あ、榎木、突然呼んで悪かったな」

部屋のドアがガチャリと開いて、藤井君が入って来た。

「ふっ藤井君……っ!!」
「あー、帰って来ちゃったかぁ」

まさに3つ目を言おうとしたところだったので、僕の心臓はこれ以上にないってくらいヒートアップしている。
うわー顔も真っ赤だし、絶対ヘンに思われる!!

そう思ってクルッと藤井君から身体ごと背を向けたんだけど。

「何、榎木、耳真っ赤……って、仁志お前あの質問してたんだろ」
「当ったりー。2つまで聞き出せたんだけどなーで、3つ目何?拓也♪」
「いっ言わないっっ」

後ろを向いてもバレバレで、しかも、その原因まで知ってるなんて最悪だ。
そんなの、本人の前で言えるわけないだろー!

「お前なー、榎木呼べって言ったり、俺買い物行かせたり……そんな事だろうとは思ったけど」

な……っ、僕が呼ばれたのも、藤井君が不在だったのも、森口君の策略だったってこと!?

「ま、拓也にしちゃ上出来か。悪かったな、拓也」
「森口君」

ポンと肩に手を載せて僕の顔を覗き込んだ森口君がギョッとした。

「な、泣くなよ拓也!!」
「なっ泣いてな…っ」

恥ずかしさのあまり、少しだけ涙が滲んだけどっ。

「はい、昭広、あとはお前の仕事」
「何言ってんだよ」
「わっ」

森口君に肩をグイッと押され、僕は藤井君の胸に収まる形になった。

「それじゃ、俺帰るわ。それと昭広」

コソッと何かを藤井君に耳打ちをして「じゃあな、拓也。また今度遊ぼうな」と、藤井君の部屋から出て行った。
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