Twilight X'mas
Time:16:03――
二人は自宅最寄り駅に向かうべく再び電車に揺られていた。
「藤井君、何処行くの?」
「まだ秘密」
クリスマスと言えど、日本のカレンダー的には普通の平日。
まだ仕事帰りのラッシュには早いが、ここ2~3日の間で冬休みに入った学校は多く、やはりいつもよりは学生カップルやグループで車内が賑わっている印象だった。
Time:16:30――
最寄り駅でいつものように改札を抜けると、そこにはすっかり見慣れたクリスマスツリー。
まだ空は淡いオレンジ色が濃く、イルミネーションは灯ってはいるが映えはしない。
あと30分程経てば、見頃になるだろう。
「コレも、今年はもう見納めだねー」
立ち止まって見上げる拓也に藤井は
「榎木、ちょっと急ぐぞ」
と、手を取って足早に歩き出す。
その方向は、互いの自宅とは逆方向。
「あ、うん!」
拓也は引っ張られるまま、藤井に歩を合わせた。
Time:16:40――
「着いた」
辿り着いたのは、住宅街の脇にある歩道石段の最上段。
結構な段数のあるその石段は、昇り切るとまた別の住宅街に続き、階下には先程の住宅街が見渡せて、その先には地平線が真っすぐ、まぁるく見えた。
「う…わぁ…」
「夕方4時45分。この時期は、今、一番いい景色」
時刻を確認して藤井は言う。
ほんの15分前までは、まだオレンジ色に染まっていた空が、今は紺色から薄紫のグラデーションが地平線から上を染め上げていた。
「たった15分で、こんなに変わるんだ…」
「更に15分後は、もう真っ暗だぞ」
いつも、何気なく過ごしていただけでは気付かないうつろい。
「人工的なイルミネーションもいいけど、たまにはいいだろ、こういうのも」
「うん!すっごく綺麗」
鼻の頭を赤くしてニッコリ笑う拓也の冷たい頬を、藤井は包むようにして触れる。
「ただ、寒いのが難点だけどな」
「そんなの、へっちゃら…」
言い終わる前に、塞がれた口元。
啄む口付けは、角度が変わる毎に、深く、長く…。
「…………はっ、」
「ほっぺ、あったかくなった」
解かれたそれに、呼吸を整える拓也の頬に触れたままの藤井の一言。
「なっ…」
更に熱を集める拓也の頬に、藤井は今度は自らの頬を寄せる。
「榎木、あったかい」
「誰のせいだと…っ」
離してーとジタバタする拓也を、ギュッと抱き込む。
「帰したくねーなー」
思わずポツリと出た藤井の呟き。
「だ、ダメだよ。僕んち今夜パーティーだもん。実待ってるもん」
「分かってる」
藤井は拓也を抱え込んでいた腕を解いて「帰るか」と手を差し出す。
「うん」
そっと手を重ねて、元来た階段を下り始めた。
Time:17:00――藤井の言った通り、空はすっかり暗くなっていた。
「藤井君、今はまだ実も小さくて、僕も家族は大切だから…でも、もう少し大人になったら…」
「あぁ、そうだな…」
人気のない住宅街を手を繋いで歩いて。
この先も一緒に迎えたい聖なる夜。
共に過ごせるようになるのは、もう少し先だけど…。
住宅街を抜けて次第に賑やかになる駅周辺。
ツリーの周りは既に人でいっぱいだった。
その喧騒を抜けて、今度は自宅の方面へ。
いつもの分岐地点でピタリと脚を止める。
「藤井君、メリークリスマス」
「俺も」
互いに差し出されたのは形は違えど小さな包み。
「たいした物じゃないけど…」
「お互い様だな、俺もだぜ」
クスリと笑い合い、仲良くプレゼント交換。
「藤井君、前に『クリスマス家でやらないからプレゼントもらった事ない』って言ってたから…僕が藤井君の初めてのサンタさん」
ちらっと上目遣いで見上げて言われた言葉に、藤井は一瞬目を見開いた。
「なんちゃって…わっ」
はにかむ拓也を藤井は右肩に抱き抱えた。
「もう帰さん」
そのまま自宅方面へ歩き出した藤井に拓也は焦る。
「えっ、ちょっ困るっ。藤井君!!」
肩の上でバタバタと暴れる拓也を下ろすと、ギュッと抱きしめ耳元で囁く。
「じゃあ、明日。明日も会えるなら、今帰す」
「う、うん」
明日の約束をして、拓也は藤井を納得させる。
「明日、うち誰もいないから」
一加とマー坊は追い出すし。
「ふっ藤井君!!」
そんな、追い出しちゃ可哀相だよ!!と言う拓也に
「煩い。今の一連は全部お前が悪いんだからな。覚悟しとけよ」
ニヤリと笑って藤井は言い放つ。
「え、えー…」
Time:17:45――
二人のクリスマスは、もう一日あるようです――…。
-2013.12.25 UP-
二人は自宅最寄り駅に向かうべく再び電車に揺られていた。
「藤井君、何処行くの?」
「まだ秘密」
クリスマスと言えど、日本のカレンダー的には普通の平日。
まだ仕事帰りのラッシュには早いが、ここ2~3日の間で冬休みに入った学校は多く、やはりいつもよりは学生カップルやグループで車内が賑わっている印象だった。
Time:16:30――
最寄り駅でいつものように改札を抜けると、そこにはすっかり見慣れたクリスマスツリー。
まだ空は淡いオレンジ色が濃く、イルミネーションは灯ってはいるが映えはしない。
あと30分程経てば、見頃になるだろう。
「コレも、今年はもう見納めだねー」
立ち止まって見上げる拓也に藤井は
「榎木、ちょっと急ぐぞ」
と、手を取って足早に歩き出す。
その方向は、互いの自宅とは逆方向。
「あ、うん!」
拓也は引っ張られるまま、藤井に歩を合わせた。
Time:16:40――
「着いた」
辿り着いたのは、住宅街の脇にある歩道石段の最上段。
結構な段数のあるその石段は、昇り切るとまた別の住宅街に続き、階下には先程の住宅街が見渡せて、その先には地平線が真っすぐ、まぁるく見えた。
「う…わぁ…」
「夕方4時45分。この時期は、今、一番いい景色」
時刻を確認して藤井は言う。
ほんの15分前までは、まだオレンジ色に染まっていた空が、今は紺色から薄紫のグラデーションが地平線から上を染め上げていた。
「たった15分で、こんなに変わるんだ…」
「更に15分後は、もう真っ暗だぞ」
いつも、何気なく過ごしていただけでは気付かないうつろい。
「人工的なイルミネーションもいいけど、たまにはいいだろ、こういうのも」
「うん!すっごく綺麗」
鼻の頭を赤くしてニッコリ笑う拓也の冷たい頬を、藤井は包むようにして触れる。
「ただ、寒いのが難点だけどな」
「そんなの、へっちゃら…」
言い終わる前に、塞がれた口元。
啄む口付けは、角度が変わる毎に、深く、長く…。
「…………はっ、」
「ほっぺ、あったかくなった」
解かれたそれに、呼吸を整える拓也の頬に触れたままの藤井の一言。
「なっ…」
更に熱を集める拓也の頬に、藤井は今度は自らの頬を寄せる。
「榎木、あったかい」
「誰のせいだと…っ」
離してーとジタバタする拓也を、ギュッと抱き込む。
「帰したくねーなー」
思わずポツリと出た藤井の呟き。
「だ、ダメだよ。僕んち今夜パーティーだもん。実待ってるもん」
「分かってる」
藤井は拓也を抱え込んでいた腕を解いて「帰るか」と手を差し出す。
「うん」
そっと手を重ねて、元来た階段を下り始めた。
Time:17:00――藤井の言った通り、空はすっかり暗くなっていた。
「藤井君、今はまだ実も小さくて、僕も家族は大切だから…でも、もう少し大人になったら…」
「あぁ、そうだな…」
人気のない住宅街を手を繋いで歩いて。
この先も一緒に迎えたい聖なる夜。
共に過ごせるようになるのは、もう少し先だけど…。
住宅街を抜けて次第に賑やかになる駅周辺。
ツリーの周りは既に人でいっぱいだった。
その喧騒を抜けて、今度は自宅の方面へ。
いつもの分岐地点でピタリと脚を止める。
「藤井君、メリークリスマス」
「俺も」
互いに差し出されたのは形は違えど小さな包み。
「たいした物じゃないけど…」
「お互い様だな、俺もだぜ」
クスリと笑い合い、仲良くプレゼント交換。
「藤井君、前に『クリスマス家でやらないからプレゼントもらった事ない』って言ってたから…僕が藤井君の初めてのサンタさん」
ちらっと上目遣いで見上げて言われた言葉に、藤井は一瞬目を見開いた。
「なんちゃって…わっ」
はにかむ拓也を藤井は右肩に抱き抱えた。
「もう帰さん」
そのまま自宅方面へ歩き出した藤井に拓也は焦る。
「えっ、ちょっ困るっ。藤井君!!」
肩の上でバタバタと暴れる拓也を下ろすと、ギュッと抱きしめ耳元で囁く。
「じゃあ、明日。明日も会えるなら、今帰す」
「う、うん」
明日の約束をして、拓也は藤井を納得させる。
「明日、うち誰もいないから」
一加とマー坊は追い出すし。
「ふっ藤井君!!」
そんな、追い出しちゃ可哀相だよ!!と言う拓也に
「煩い。今の一連は全部お前が悪いんだからな。覚悟しとけよ」
ニヤリと笑って藤井は言い放つ。
「え、えー…」
Time:17:45――
二人のクリスマスは、もう一日あるようです――…。
-2013.12.25 UP-
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