X'mas Express

「藤井君、おはよー」
「…………」
「藤井君?」

通学路での合流地点。
いつも通りに挨拶をするのに、顔を見返すものの返事のない藤井を拓也は不思議そうに見る。

すると前触れもなくグイッと腕を引っ張られ、ギュッと抱きしめられた。

「ふ、藤井君!?」

突然の出来事に慌てる拓也の耳元で、藤井はそっと囁く。

「サンタ…『信じてたら自分の中にはいるんだよ。僕はいると思ってるよ』」

「……何だっけ、それ……」

抱きしめられたまま、拓也は言われたことを頭の中で反芻する。
どこかで聞いたことがあるような…。

「昔、一加とマー坊に言っただろ。サンタ信じてるって」

「あ…」
(そう言えば…)

途端に蘇る記憶に、しかし言った内容があまりにも恥ずかしくて。

咄嗟に両腕を伸ばして、藤井の胸元を押し返す。

「べべべ、別に、本当に信じてたわけじゃなくてっ」

カァーっと顔を赤くして否定をする拓也に、藤井は笑う。

「いやー、小6でサンタを信じてても、お前なら有り得るかなって」
「藤井君!!」
「マジな話、何歳まで信じてた?」
「…………しょ、小4くらい?」
「やっぱ可愛いー」
前を歩く拓也を後ろから追いかけて、顔を覗き込む。
すると、赤くなった顔を隠すようにふいっと顔を背けて、拓也は訊ねた。
「ふっ、藤井君はいつまで信じてた!?」
「俺?サンタからプレゼント貰ったことないから、最初から信じてなかった」
「可愛くなーい」

赤面のまま拳を握り、それで藤井の胸元をグッと押す拓也に、藤井は微笑みつつ。

「そんな拓也君に、今年は俺がプレゼントをしようと思いますが」
「え…」
「何かご要望は?」
「…………」
無言のまま、拓也は上目遣いにしたり伏し目がちにしたり、大きな瞳をキョトキョトと巡らせる。

「榎木?」

「一緒にいてくれたら、それでいー…」

恥ずかしそうに視線を落とし、遠慮がちに小さく呟く拓也に、また、自分と同じようにクリスマスを一緒に過ごしたいと思っていてくれていたことに、嬉しさと愛しさが積もる。

「…そっか。じゃあ、クリスマスは一緒に過ごそうな」
「うん」


――――聖なる日は、大切な人と共に。


(榎木、今何が欲しいんかな)
(藤井君が喜んでくれるものって、何だろう?)


考えることはお互い一緒。
それぞれを想ってプレゼントを考えるのも、また楽しみの一つ――……。


-2013.12.03 UP-
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