X'mas Express

TVをつけても街を歩いても、そこかしこからクリスマスソングが流れている今日この頃。
藤井家の下二人もまた、まだまだ小学校低学年、子供特有の期待に浮き足だっていた。

「今年のサンタさんはー、ちょっとオシャレなブーツくれるといいなぁ」
「一加ちゃんいいですねー。僕はゲームが欲しいなぁ」

(コイツら…まだサンタ信じてるのか…)

リビングでのそんな二人のやりとりを傍らで眺めていた藤井は、普段マセたコトを言う妹と生意気な口を利く弟でも、やっぱりまだまだ子供なんだなーとボンヤリ思った。

藤井自身 所謂「サンタさんからのプレゼント」をもらった記憶はないが、自分が小6の時にサンタの存在を信じて幼い二人の力だけでささやかなパーティーが開かれた年から、家族でのパーティーはこれといってしないものの、両親と上の兄姉が扮する「サンタ」によっての下二人へのプレゼントの贈呈が続けられていた。

父曰く「子供の夢は大切にしないといけない」。
この二人の今の会話も、そのうちリサーチとして、藤井に「何か聞いてないか」と家族の誰かから探りを入れられるだろう。

じゃあ、幼い頃からスルーされてきた俺は一体何なんだと文句の一つも言いたい気もするが、今更のことだし、あの小6の時点では既にサンタの存在なんて信じてはいなかったので、もうどうでもいい。
それに今年は、一緒に過ごしたい人もいる。
向こうは家族を大切にする者の故、夜は勿論それぞれの家庭に収まるだろうし、しかしまだ高校生の身分、それで全然構わない。
ただいつもと少しだけ違う雰囲気と時間を一緒に過ごせればいいのだ。

「昭広兄ちゃんは、拓也お兄様に何をプレゼントするの?」
「っ、ゴホッ」
不意に話しかけられ、藤井は飲んでいたコーヒーが本来の通り道ではない方向へ流れていったことにむせ返る。

「知ってますよー、大人になったらサンタさんは来なくて、代わりにコイビトがサンタさんになるんです」
「だから、将来の私のサンタさんは実ちゃん~♪」

弟妹たちはゲホゴホと器官に入った液体を押し出すように咳を繰り返す兄をそっちのけで話を進める。

「昭広兄ちゃんは、小学生の頃サンタさん信じてましたか?」
「はー?ンなモン…」
言いかけて、ハッとする。
自分がここで不用意な発言をしたら、ここ数年の両親(プラス兄姉たち)の気遣いが水の泡になってしまう。
「…さあな。どうだったかな」
興味ねぇー、といつも通り当たり障りのない返答をした。

「拓也お兄様は信じてたわよ」
「…は?」
「お兄ちゃんたちが6年生の時、『来るか来ないかも、いるかいないかもわからないけど、信じてたら自分の中にはいるんだよ。僕はいると思ってるよ』って言ってたもん」

小6で本当にサンタの存在を信じていたのかというのは疑わしいが(いや榎木なら有りうるのかも…と思わなくもないがと、一瞬藤井は思ったが)恐らく拓也のこと、純粋な子供の心を傷つけないように言ったのであろう。
存在自体の有無は分からないとしたものの、信じることが大切だという、実に拓也らしい応え。
そんな純粋な心に触れて、今ここに本人がいたらギュッと抱きしめたい、次会ったら絶対ハグしようと心に決める。

「じゃあ、今年もサンタ来るだろな」
「うん!!」

ニッコリ笑って応える弟妹たちに、まだそんな頃ももう暫く続いてもいいだろうな、と藤井は思った。
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