夏祭り―浴衣でしたい3つのこと―

ドンッと大地に響く音と共に、空に大輪の花が咲き始めた。

「始まった!」
「きれー…」
「たーまやー!」
「実、お約束だな」

次々と上がる色とりどりの花火。
実と一加の一歩後ろの位置に、二人並んで腰を下ろして空を眺める。

「榎木」
「ん?」

視線を藤井に移すと、口元を掠められた唇。

「ふじ…っ」
「ごちそうさま」

片目を瞑って「しー」と左手人差し指を口元に立て、右手で前に座るちびっ子二人を指差す藤井。
二人は花火に夢中で、後ろは全然気にかけていない様子。

「………っ」
顔を赤くして、怒るに怒れない状況に口をパクパクする拓也に、藤井は悪戯っぽく笑う。
「まあでも、実際見られても困るし…」
小声で言って、拓也の左手をそっと握る。
「今は、これで我慢」
「藤井君…」
少し戸惑ったような表情をしつつも、藤井の手の温もりに心が穏やかな鼓動に包まれて。
「うん…」
と小さく応え、拓也もその手を握り返した。


約二時間の打ち上げ花火。
終わって縁日の通りを抜けて、静かな住宅街に差し掛かる頃には、ちびっ子二人はすっかり疲れきっていて…。

「兄ちゃん…おんぶ…」
「昭広兄ちゃん…眠い…」

足元の覚束ない弟妹に「勘弁してくれよ」と言いつつ、背負う二人。

「何か、保育園のお迎え思い出すよね」
「全くだ」

二人顔を見合わせて、クスリと笑い合う。

「まさか、藤井君と、こんなに長く付き合う事になるとは思わなかった」
「今は別の意味の付き合いだけどな」
「それも含めて…」
かぁっと頬が熱くなるのを感じ、拓也は視線を足元に落とす。

「将来、もし実と一加ちゃんがどうにかなったら、僕達親戚だ」
「あ、そっか…それなら、こいつらの応援も悪くはないな」
「藤井君…」
おどけて言う藤井に、拓也は苦笑する。

「でも…」
拓也の頬に片手を掠め
「そんなの関係なく、俺はずっとお前と一緒にいたいし、いれる自信あるけどな」
言いながら、少しずつ近付く藤井に、拓也も瞳を閉じて応じる。

軽い口付けを解いた、その時。
「んー…」
背中で蠢く気配にハッとして、慌てて距離を開ける。

「やっぱり、こいつら超邪魔」
「そんな…邪険にしたら悪いよ…」
「出たな、優等生発言」
「な…っ!!」
またそういう意地悪言う!と、拓也は声を荒げるが、藤井はお構いなしに言葉を続ける。
「だって俺は、二人で来たかったから。榎木は?」
「………っ」
「榎木は違うの?」
真っ直ぐ見つめる藤井の瞳に、拓也の顔が赤くなる。
「そっ、そんなの!言わなくても分かってるんじゃ…」
「聞きたい」
真剣な表情で言われ、拓也は言葉に詰まる。
「俺は言ったけど?素直な気持ち。お前は?」
そう言われると、拓也は弱い。

「………、僕だって、二人がいい…っ」

恥ずかしさから、顔は俯いていたがやっとの思いで言葉を紡ぐ。
すると、藤井は満足そうに微笑んだ。

「じゃあ、来年は二人で行こうな」

(来年…)

拓也はパッと藤井の顔を見上げる。

「ん?」

そんな拓也に「どうした?」と言わんばかりの藤井。
当然のように次の夏の約束をする藤井が拓也は嬉しくて。

「うん!来年は、絶対!」

力強く返事をする。

次の夏も、その次も…。
幾つもの夏を共に過ごせたら―――…。


先の事は、分からない。
でも、今確かにある、想い、願い。
それは絶対に揺るがない。
きっと、ずっと、君は僕の大切な存在。


夜空の下で、穏やかな笑みと約束を交わす二人の持つ袋の水の中で、涼しげに金魚が泳いでいた。



☆――――――――☆
"浴衣でしたい5つのこと"
から3題抜粋
お題提供:確かに恋だった


-2013.07.30 UP-


〈お題答え合わせ〉
・金魚すくい→をして、浴衣姿と金魚袋で視覚的納涼感
・手をつないで→一緒に花火見物
・夜空の下で→来年の約束
(残り二つは「縁側で夕涼み」と「線香花火」でした)
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