夏祭り―浴衣でしたい3つのこと―

川原へ続く一本道に出ると、縁日が並び賑わいを増す。

「一加、自重しろよ。小遣いは限られてるんだからな」
おねだり攻撃を受ける前に先手を打つ藤井。
「煩いわね、人をまるで食いしん坊みたいに。レディに対して本当デリカシーなし」
相変わらずの口調で睨み付ける妹に
「言いたい事はそれだけか?お嬢様」
「いひゃい~あにふんのよー!!」
藤井は一加の両頬を引っ張って反撃する。

「ま、まあまあ、藤井君」
拓也もいつものように二人の仲裁に入った後、実に向き直り
「実も!本当に欲しい物だけ選んでよ」
と忠告をする。

とは言っても、折角のお祭。
「まあ、そう気にせず楽しみますか。手始めに氷?」
「そうだね」
賑やかな縁日の屋台を吟味しながら歩き出した。


綿菓子・たこやき・お好み焼き。
射的・輪投げ・ヨーヨー釣り。

誘惑は沢山あるもので、どれを食べるか何を遊ぶか、屋台を見比べながら川原に向かって歩く。
「あ…」
そんな中、拓也の足を何となく止めたのは金魚すくいのテント。

「可愛い…」

浅広いケースの中で所狭しと泳ぐ金魚達を、ケースの周りにしゃがんで金魚すくいを楽しむ客の上からその様子を覗き込み、拓也は笑みを零す。

「意外なモンに惹かれたな」
「兄ちゃん、やるの?やるの?」
実がワクワクしながら聞く。
「うーん…でも生き物だしなぁ…」
後の事を考えると、気軽には出来ない…と考え込む拓也に
「そんな重く考えなくても…おじさん、二人分」
と、藤井は小銭と引き換えにポイを二つ受け取り、一つは拓也に渡す。
「え!? 藤井君!?」
「すくったら、ちゃんと毎日エサやりやるよなー実?」
藤井が実に言うと
「もっちろーん」
と、ニコニコして答える。
「男同士の約束だからな」
そして拓也に向き直り、
「榎木、どっちがたくさんすくえるか、勝負」
「え!? ちょっと…?」
空いたスペースに腰を下ろし、金魚すくいに取り掛かる藤井。

(そういえば…実と藤井君って、B型同士だった…)

物事を真剣すぎる程に考え込む拓也に対して、あっけらかんと進める二人。
藤井の器用さと、実の末っ子故の世渡り上手からか、案外それが上手く事が運んでしまったりする事も多く、自分も二人のように思いきりが欲しいと思う時がある。

拓也だって決断力がない訳ではない。
寧ろ決めたら、その後の行動は早い訳だが。

「負けないからね」

クスリと笑って藤井の隣にしゃがみ込んで、すくいやすそうな金魚を吟味。
「兄ちゃん頑張れー」
「拓也お兄様、ファイト!」
「俺の応援はいないのかよ…」

さて、結果は…?


「藤井君って、本当器用だよね」
「お前もだろ」
「僕のとは違う器用さだよ」

結果は拓也2匹に対して藤井は5匹と、藤井に軍配が上がった。
ただ、そんなにいらないと、3匹リリースして、それぞれの袋の中は2匹ずつ。
浴衣姿の拓也の手に水と金魚の入ったビニール袋のオプションが加わり、視覚的に涼しさが増したようで…

「榎木、グッジョブ、想像通り」
「は?」

満足そうに笑顔を見せる藤井に拓也は疑問顔。
「どういう意味?」
「俺が満足だからいいんだよ」
「会話になってないよ藤井君」
「拓也お兄様、放っといてあげて…」
おませな一加には藤井の心境が解るようだが、鈍ちん榎木兄弟にはさっぱりだった。


「そろそろ川原に行こうか」
一通り縁日を楽しみ、時間を確認するともうすぐ花火が打ち上がる時間。

小学6年の時、一緒に花火を見た川原。
花火観覧スポットと外れるようで、実は穴場だったりする。

「懐かしいね」
もう、4年も前の事。
毎年の夏祭りも、中学の間は家族と行ったり、クラスの友人達と行ったりと、二人で行く事はなかった。
そもそも、そういう間柄でもなかった訳で。

「あの時は大変だったなぁ、一加?」
「うっ煩いわね、若気の至りよ」
「え、なぁにー?」
「流石に実は覚えてないかー」
アハハと笑う藤井に
「まだ3歳だったもんねー実」
拓也も笑って言う。
「何だよー教えてよー」
ふて腐れる実に一加は
「実ちゃんは知らなくていいのよ。思い出は美しくなくちゃ」
と言うが
「実、あの時な…」
「お兄ちゃん!!」
三人の賑やかなやり取りを眺めながら、拓也は何だかほっこりとした気分になる。

(いいな、楽しいな)

4年も経てば、環境も状況も随分と変わる。
まだ幼かった実や一加は小学生になり、自分達は高校生になった。
そして、あの頃は知らなかった、大切な想い。

今目の前にいる存在、自分の中の想い、全てを大切に守っていきたいと、拓也は思った。
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