もう恋は始まっていた

藤井にとって考えてみれば、早くに母親を亡くし、弟の実の面倒や家事を熟していく同級生に、自分も助けられたものだ。
拓也には迷惑だっただろうに、嫌な顔しないで実に付き纏う一加やマー坊の相手をしてくれたのは本当に有り難かったし、藤井が風邪で倒れた時はかいがいしく世話もしてもらった。
中学ヘ上がってからは、親友の森口が別の中学ヘ行った事もあり、より一緒にいる時間が増えたように思う。

(いつからだったっけ?)
榎木ヘの "そういう気持ち" を意識したのは────


キーン コーン カーン コーン
「やったー飯ー」
「中庭で食べよっかー」
4限終了を告げるチャイムと共に、昼休みだ!と教室内が賑やかになる。

「藤井ー飯行こうぜー」
「おー…」
クラスメイトに声をかけられ、伸びをしながら気怠く返事をする。
「あれ?榎木は?」
別の級友が「榎木がいない」と言いながら藤井の席まで来た。
確かに拓也の席にも教室内にもその姿は見当たらない。
そもそもいつも真っ先に声をかけて来るのは拓也の方だ。

(…………)
「わり、先食べに行ってて」
「お、おう」

そう言って藤井は、廊下を駆け出していた。
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