兄貴というもの

「それに、実君が、誰よりも拓也君の事慕っているじゃないか。それがいい証拠だよ」
「友也さん…」
「だから、"頼りない"なんて、そんな事気にする必要ないんだよ。拓也君には拓也君にしか出来ない "お兄さん"になってるんだから。そもそも、頼りなくないと思うし」
ニッコリ笑って励ます友也に、拓也も「ありがとうございます」とお礼を言いながらふわりと笑う。

(はぁぁぁ、その笑顔、たまらん)
本当、昭広のじゃなかったら、このままお持ち帰りするところなのに!
そう思いながら、友也は大分温くなったコーヒーを喉に流す。

話をしている内に、カップの中身もすっかりなくなり、そろそろ行こうかと席を立つ。

返却口にトレイを返し外に出ると、出掛けていたのであろう、丁度藤井と出くわした。

「藤井君!」
「榎木…と兄貴?何で?」
「たまたま会って、お茶付き合って貰ったんだよ。悪いか?」
友也はニヤリと笑って藤井を見る。
「前科あるからなぁ…榎木無事か?」
「大丈夫だよっ!それに色々話聞いてもらっちゃった」
「話?」

拓也の腕をやんわりと引き寄せ、藤井は兄を訝り見る。
「そっ!長男同士の悩み相談♪次男坊のお前には解らない事だよ」
「と、友也さん!」
何でそんな風な言い方するんですかぁ、と少し困った感じで言う拓也に
「あ、そうそう拓也君、だからさっきの話、拓也君は兄貴として自信持っていいんだからね」

そう言うと、ちょいちょいと、人差し指で顔貸して?の仕種をする友也。
藤井が止める間もなく、素直に従う拓也が顔を近付けた瞬間、頬に柔らかい感触。

「…っ」
「ごちそうさま♪」
「とっ友…」

拓也は真っ赤になり触れられた頬を片手で押さえ、藤井は「友也―――っ!!」と怒り叫び、友也はそのまま飄々と二人に背中を向け手を振り去って行った。


「ったく!油断も隙もあったモンじゃねぇ!!」
拓也の右手を掴み、ずんずんと歩く藤井。
「ふ、藤井君!? そっちは家の方向じゃないよ!?」
「いいからついて来る!」
「ハイッ」

着いた所は小さな公園。
もう大分陽が落ちかかっている為、子供もいない。

「全く、お前も油断しすぎ」
「ご、ゴメン」
素直に謝る拓也に溜め息を吐き、先程友也が触れた頬に、藤井も唇を落とす。
「消毒」
「何か酷いなぁ、それ」
と拓也は苦笑するが
「酷くない。時間開いたから1回じゃ足りないくらい」
と藤井は再び触れる。
「何それ…んっ」
そして今度は唇に。

銀糸を伝って口付けを解く。
「ここは、する必要なかったのに…」
と拓也が小さく言うと
「当たり前だ。もししてたら、友也数発殴らなきゃ気が済まない」
「物騒だなぁ…」
苦笑する拓也に、もう一度口付ける。


陽がすっかり落ち、手を繋いで帰路に着く。
「あー、買い物しそびれた」
そもそも拓也は夕飯の買い出しに出ていたのだ。
「スーパー寄ってくか?」
遅くなった一因は自分にもあると藤井は感じ、買い物に付き合おうと提案するが、
「遅くなるし、いいや。父さんが帰ってきて何か作ってるかもだし、いざとなったら有り合わせで丼物にでもするよ」
確か中途半端に残ってる野菜やらウィンナーがある筈~、それを炒めて固栗粉でとろみつけて…

「よし、あんかけ野菜丼!」

素早く冷蔵庫の中身とレシピをシュミレート。

そんな拓也の姿に、プッと藤井は吹き出す。

「そこいらの主婦より主婦らしい」
「どっどうせ所帯染みてるよっ!」
頬をぷくーと膨らませてそっぽを向く拓也に、藤井はまた微笑む。


「あ、そういえば、藤井君は弟だけど兄でもあるんだよね…真ん中ってどんな感じ?姉兄妹弟全部いるってすごいよね」
(賑やかで楽しそうだけど…)

「上からの圧力、下からの我が儘攻撃で最悪だぜ…中間管理職そのもの」
「そ、そうなんだ…」
(やっぱり大変なんだなぁ…)

「でも、何だかんだ言っても、お姉さん達も、友也さんも一加ちゃんもマー坊も好きだよね、藤井君」
「…まぁ、嫌いではないな」
珍しく藤井の照れた表情を見られて、満足気な拓也。

「藤井君、可愛いー」
「な…っ」
「友也さんの気持ち解るなぁ~」
「あ、コノヤロ」

アハハと笑いながら、もうすぐ辿り着く分かれ道。



夜、風呂上がりの友也に一通のメールが届いた。

「おっ♪拓也君からメール」
俺からのメールの返信以外なんて珍しい~と思いながら、中身をチェックする。

『藤井君って、可愛いですよね』

「おい、昭広。何だこのメール」
「は?」
拓也からのメールを見せられ
「しっ知らねぇよ!」
と赤くなって逃げるように「フロ入る!」と脱衣所に入って行く藤井。

「何!? 俺、何でイキナリのろけられてんの!?」
と、一組の兄弟を混乱に陥れる天然がいたとか。


-2013.05.17 UP-
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