兄貴というもの
夕飯の買い出しにスーパーへ行く途中、よく知った声に呼び掛けられた。
「たーくや君」
「友也さん!」
今日は昭広と一緒じゃないの?と聞かれ、そんな毎日一緒じゃないですよ、と拓也は苦笑混じりに答える。
「友也さんは今週末は帰省ですか?」
「おう、明日の日曜にこっちの友人と約束してて、さっき帰って来たトコ」
「そうなんですか、お帰りなさい」
相変わらずの笑顔で言われ、友也も頬を緩め「ただいま」と応える。
「よかったら、お茶でもしないか?奢るよ」
「え…でも」
「この間のお詫びもしたいし、お兄さんに奢らせてよ」
この間の事…そう言われ拓也の顔がサッと赤くなる。
「あの…藤井君とは、ちゃんと仲直りできましたか?」
「うん、ヘーキヘーキ。暫くはふて腐れてたけど、アイツ基本俺の事好きだから」
拓也も、何だかんだ言ってもこの兄弟の仲が良い事を知っている。
「そうですね。じゃあ、お言葉に甘えて」
クスリと笑う拓也に
「そうこなくっちゃ」
とウィンクをする友也。
スーパーを通り越して、その先にあるカフェへと入って行った。
カウンターでオーダーをして受け取り場所でそれぞれ受け取る。
「頂きます」
「どうぞどうぞ」
自分の分は…と言ったが、奢ると言うので甘えた。
こういう厚意を素直に受けるのも、相手を(年上には特に)立てるには必要な事だと分かっている。
また友也自身も、拓也の性格上一度は遠慮する事が分かっているので、殊更に甘えさせたかった。
素直じゃない昭広も、からかい甲斐がありそれはそれで可愛い弟だと思うが、拓也はまた違う可愛さだなと思う。
「藤井君とは、もう会ったんですか?」
「いや、まだ。駅から家に向かってる途中で拓也君に会ったから」
「そうだったんですか」
友也の恰好や荷物が余りにもラフなので、一度自宅へ帰ったのかと思ったのだが、たかだか実家に1~2泊するだけなのだ、寧ろ手ぶらでもいいのかもしれない。
そう思った拓也は、カフェオレの入った自分のカップを口にする。
「あっつ」
「おや、猫舌?」
涙を滲ませて舌先を出す拓也に、友也は問う。
「猫舌です…」
拓也がやっぱアイスにすれば良かったかなぁと呟いている間に、友也はコンディメントバーに置いてあるお冷やを紙コップに注いで持って来た。
「あ、ありがとうございます」
「どう致しまして」
ニコッと笑って返事をし、冷水を含む拓也を友也はマジマジと眺める。
「何ですか?」
「いやー、可愛いなぁと思って」
「ま、またそういう事を…」
拓也は赤くなって両手で握る冷水の紙コップに視線を移す。
「いやホント。昭広じゃ絶対ない反応だし」
「あれ?でも藤井君も猫舌ですよね?」
昔、お粥を作ってあげた時にそんな事を言っていたのを、拓也は覚えている。
「よくご存知で」
「小学生の頃、そんな事聞いたなぁって」
「ふーん…まあ、反応っていうか、仕種?うーん何て言うか、同じ水を飲むでも、昭広とは違うな」
「何ですか、それ…」
「うん、俺もよく分かんないや」
アハハーと笑いながら、友也は自分のコーヒーを飲む。
「藤井君は、お兄ちゃんがいて、いいな」
拓也からポツリと出た呟き。
「ん?」
カップを口にしたまま、友也は聞き返す。
「小・中の頃は、藤井君よくお兄さんとゲームで遊んだって話してたの聞くと羨ましかったし、この前だって、藤井君の学校の事僕に聞いたのだって、気になってるって事ですよね?」
カフェオレのカップの口の部分にふーっと息を吹き掛けながら、友也に問う。
(いや、別に深い意味はなかったんだけど…)
「まぁ、多感な高校生だし、あの性格だし、アイツ学校で上手くやってるのかなぁと思って?」
聞きながら、そーっとカップを傾けて液体を喉に通過させた拓也の様子を見て「もう熱くない?」と尋ねる。
「そうやって、心配してくれるお兄さんって僕にはいないから…ほら今も、さりげなく僕を気にかけてくれたり…もう熱くないですよ」
やっぱり頼りになるお兄ちゃん、いいなぁ!とホッコリ笑顔で言う拓也に
(昭広のじゃなかったら…!!)
と思わず思ってしまう。
「で、でも拓也君だって "兄貴"だろ?」
そんな思いを打ち消すように、別の角度から話題に触れてみる。
「兄貴なら、下の弟妹心配して当然じゃない?拓也君もそうだろ?」
「うーん…でも僕は友也さんみたいに "頼れる兄貴"じゃないですし…」
拓也にとって飲み頃になったカフェオレを一口。
「そうかな?一加やマー坊は『拓也お兄様は優しい』『実が羨ましい』って言ってるけど?奴らに言わせれば、俺らはガサツで乱暴なんだと」
ひでぇ言われようだろ?と友也はヘラっと笑って見せる。
「たーくや君」
「友也さん!」
今日は昭広と一緒じゃないの?と聞かれ、そんな毎日一緒じゃないですよ、と拓也は苦笑混じりに答える。
「友也さんは今週末は帰省ですか?」
「おう、明日の日曜にこっちの友人と約束してて、さっき帰って来たトコ」
「そうなんですか、お帰りなさい」
相変わらずの笑顔で言われ、友也も頬を緩め「ただいま」と応える。
「よかったら、お茶でもしないか?奢るよ」
「え…でも」
「この間のお詫びもしたいし、お兄さんに奢らせてよ」
この間の事…そう言われ拓也の顔がサッと赤くなる。
「あの…藤井君とは、ちゃんと仲直りできましたか?」
「うん、ヘーキヘーキ。暫くはふて腐れてたけど、アイツ基本俺の事好きだから」
拓也も、何だかんだ言ってもこの兄弟の仲が良い事を知っている。
「そうですね。じゃあ、お言葉に甘えて」
クスリと笑う拓也に
「そうこなくっちゃ」
とウィンクをする友也。
スーパーを通り越して、その先にあるカフェへと入って行った。
カウンターでオーダーをして受け取り場所でそれぞれ受け取る。
「頂きます」
「どうぞどうぞ」
自分の分は…と言ったが、奢ると言うので甘えた。
こういう厚意を素直に受けるのも、相手を(年上には特に)立てるには必要な事だと分かっている。
また友也自身も、拓也の性格上一度は遠慮する事が分かっているので、殊更に甘えさせたかった。
素直じゃない昭広も、からかい甲斐がありそれはそれで可愛い弟だと思うが、拓也はまた違う可愛さだなと思う。
「藤井君とは、もう会ったんですか?」
「いや、まだ。駅から家に向かってる途中で拓也君に会ったから」
「そうだったんですか」
友也の恰好や荷物が余りにもラフなので、一度自宅へ帰ったのかと思ったのだが、たかだか実家に1~2泊するだけなのだ、寧ろ手ぶらでもいいのかもしれない。
そう思った拓也は、カフェオレの入った自分のカップを口にする。
「あっつ」
「おや、猫舌?」
涙を滲ませて舌先を出す拓也に、友也は問う。
「猫舌です…」
拓也がやっぱアイスにすれば良かったかなぁと呟いている間に、友也はコンディメントバーに置いてあるお冷やを紙コップに注いで持って来た。
「あ、ありがとうございます」
「どう致しまして」
ニコッと笑って返事をし、冷水を含む拓也を友也はマジマジと眺める。
「何ですか?」
「いやー、可愛いなぁと思って」
「ま、またそういう事を…」
拓也は赤くなって両手で握る冷水の紙コップに視線を移す。
「いやホント。昭広じゃ絶対ない反応だし」
「あれ?でも藤井君も猫舌ですよね?」
昔、お粥を作ってあげた時にそんな事を言っていたのを、拓也は覚えている。
「よくご存知で」
「小学生の頃、そんな事聞いたなぁって」
「ふーん…まあ、反応っていうか、仕種?うーん何て言うか、同じ水を飲むでも、昭広とは違うな」
「何ですか、それ…」
「うん、俺もよく分かんないや」
アハハーと笑いながら、友也は自分のコーヒーを飲む。
「藤井君は、お兄ちゃんがいて、いいな」
拓也からポツリと出た呟き。
「ん?」
カップを口にしたまま、友也は聞き返す。
「小・中の頃は、藤井君よくお兄さんとゲームで遊んだって話してたの聞くと羨ましかったし、この前だって、藤井君の学校の事僕に聞いたのだって、気になってるって事ですよね?」
カフェオレのカップの口の部分にふーっと息を吹き掛けながら、友也に問う。
(いや、別に深い意味はなかったんだけど…)
「まぁ、多感な高校生だし、あの性格だし、アイツ学校で上手くやってるのかなぁと思って?」
聞きながら、そーっとカップを傾けて液体を喉に通過させた拓也の様子を見て「もう熱くない?」と尋ねる。
「そうやって、心配してくれるお兄さんって僕にはいないから…ほら今も、さりげなく僕を気にかけてくれたり…もう熱くないですよ」
やっぱり頼りになるお兄ちゃん、いいなぁ!とホッコリ笑顔で言う拓也に
(昭広のじゃなかったら…!!)
と思わず思ってしまう。
「で、でも拓也君だって "兄貴"だろ?」
そんな思いを打ち消すように、別の角度から話題に触れてみる。
「兄貴なら、下の弟妹心配して当然じゃない?拓也君もそうだろ?」
「うーん…でも僕は友也さんみたいに "頼れる兄貴"じゃないですし…」
拓也にとって飲み頃になったカフェオレを一口。
「そうかな?一加やマー坊は『拓也お兄様は優しい』『実が羨ましい』って言ってるけど?奴らに言わせれば、俺らはガサツで乱暴なんだと」
ひでぇ言われようだろ?と友也はヘラっと笑って見せる。
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