とある男子高校生の一日
今日の三限目は体育。
内容は100m走のタイム取り。
やっぱりここでも出席番号順だから、榎木と走る事になる。
「榎木、記録いくつ?」
二人で柔軟しながら話す。
「んー平均くらいじゃない?」
「平均よりは速いだろ?」
「どうだろね」
謙虚というか無頓着というか。
「藤井も速いよな」
少し離れた所で柔軟をしている藤井と布瀬に視線をやる。
「どっちが速い?」
「んー、似たり寄ったりだよ。中学の時はコンマの差しかなかったから、リレーなんかで前走られると追い抜けなかったし」
だから逆に、僕が前走ってる時は、いつ抜かれるんじゃないかってヒヤヒヤしたし。
「ふーん…じゃあ体育祭なんか盛り上がっただろ」
「あ、それはもう!クラス違ったから、お互いのクラスの実行委員がわざと僕達ぶつける配置にするんだよね」
確かにこの二人の勝負となったらレース的にも別の意味でも盛り上がるだろうな。
女子の黄色い声が聞こえそうだ。
「藤井君は長距離も速いよー。小6の時、マラソン大会1位!!」
「マジで!? 榎木は何位だったよ」
「…………」
何となく言い辛そうな表情に
「遅かったのか?」
と聞くと
「さ…3位…」
余りの成績に絶句。
何で本当に帰宅部なんだよコイツら!!
「やっ!あの時はたまたまで!! 本当は僕長距離は苦手で」
慌てた様子で顔の前で両手をブンブン振る。
「たまたまで3位とか取れるか!…あ、」
「えーのきっ」
「わっ」
榎木の後ろから穂波が抱き着く。
「な、何?」
「癒してもらいに」
俺も中橋に奇襲をかけられたが、既(すんで)で躱す。
いつまでも榎木に引っ付いてると、ホラ…
「離せバカ」
藤井の蹴りが穂波に入った。
「ってぇ!おまっ、これから走るって時に…!!」
「知るか」
蹴られた腰を摩りながら涙目の穂波に「バカだな」「あぁ、バカだ」と布瀬と言い合っていると、俺と榎木の番が来て呼ばれた。
「じゃ、行ってくる」
「おぅ」
榎木は藤井の右手に自らの右手をパチン!とハイタッチして、俺と一緒にコースへ向かう。
「陸上部の小野崎君に勝てるとは思わないけど、全力で着いて行くからね」と真剣な表情で言われた。
いつものふんわりとした雰囲気は何処へやら。
「俺も負けねぇし」
つか、負けられねぇ。
お互い宣戦布告を目で交わしながら、スタート態勢に入った。
「今回は榎木の勝ちかぁ」
記入されたスコアカードを眺めながら、藤井が嘆いている。
でも、陸上をやってる訳ではない一般生徒の記録としたら大層な記録だ。
つか、陸上部入ってもそこそこ通じる。
「僕は小野崎君と走ったからだよ」
俺に釣られてタイムが上がったと榎木は言う。
まあ、よくある事だ。
因みに、俺は何とか陸上部としてのメンツを保つ事が出来た訳だが。
静かに悔しがってる藤井の顔を、榎木は「自己新~」と嬉しそうに覗き込むモンだから、鼻をギュッとつままれたり…学校でジャレるなコラ。
そんな二人に最早スルーを決め込み
「はぁ~…体育の後の四限目って疲れてるし腹減りピークだし最悪」
「オマケに世界史と来たもんだ」
着替え終えて教室へ向かう時のいつもの決まり文句を垂れながら、学生まだまだ頑張りますよ。
ダルダルの四限目世界史の授業を終えれば、待ちに待った昼休み。
食べ盛りの高校生には、なくてはならない時間だ。
今日は中庭へと移動して、各々昼食を広げる。
「相変わらず、榎木の弁当美味そー」
ちゃんと彩りも調えられたこの弁当は、自分で作っているというから驚きだ。
以前出汁巻き玉子を一切れ貰ったが、マジ美味かった。
「僕がお弁当作れば、父さんもお弁当になるから経済的なんだよ」
何でもないよ~ついでついで…とウズラの茹で卵を頬張り言い放つ16歳男子を俺は他に見た事ないぞ。
まあ、何だ。
ここでうっかり言葉を誤った発言をすると地雷に成り兼ねないから、これ以上何も言うまい。
でも、うん。
(出来た嫁とは、こういう奴を指すんだな、きっと)
声には絶対出さないからな。
昼休みをマッタリ過ごし、午後の授業とHRを終えれば放課後。
放課後は、日直や掃除当番でなければ、部活や委員会、帰宅と各々に散らばる。
「藤井君、今日どうする?」
「俺ん家一加が友達連れて来るって言ってたから、榎木ん家で課題やってく」
「じゃあ、一緒にやろっか」
俺の斜め前の席で、これからの過ごし方を相談をするもんだからな。
「お前ら、朝から晩まで一緒にいて飽きないの?」
つい言ってしまった。
「小野崎――…」
藤井がコソッと耳打ちしてきた。
「榎木にどんなに "好き"って言われても飽きないんだわ、これが」
「――――っ!!」
顔色変えずにイケシャアシャアとのたまいましたよ、コイツは!
つか、そんな事は聞いてねぇよ!転じて「飽きない」って事だろうがよ!俺のバカ!!
最後、最大の地雷を踏んだダメージを抱えて
「じゃ、榎木また明日な」
と軽く手を振って教室のドアへ向かうと
「うん!部活頑張ってね!」
と無邪気に返事をされた。
明日…明日もきっとこんな一日だろうな。
(でも、絶対地雷は避けたい!)
…俺も他校の彼女に会いたいデス(泣)
-2013.05.01 UP-
内容は100m走のタイム取り。
やっぱりここでも出席番号順だから、榎木と走る事になる。
「榎木、記録いくつ?」
二人で柔軟しながら話す。
「んー平均くらいじゃない?」
「平均よりは速いだろ?」
「どうだろね」
謙虚というか無頓着というか。
「藤井も速いよな」
少し離れた所で柔軟をしている藤井と布瀬に視線をやる。
「どっちが速い?」
「んー、似たり寄ったりだよ。中学の時はコンマの差しかなかったから、リレーなんかで前走られると追い抜けなかったし」
だから逆に、僕が前走ってる時は、いつ抜かれるんじゃないかってヒヤヒヤしたし。
「ふーん…じゃあ体育祭なんか盛り上がっただろ」
「あ、それはもう!クラス違ったから、お互いのクラスの実行委員がわざと僕達ぶつける配置にするんだよね」
確かにこの二人の勝負となったらレース的にも別の意味でも盛り上がるだろうな。
女子の黄色い声が聞こえそうだ。
「藤井君は長距離も速いよー。小6の時、マラソン大会1位!!」
「マジで!? 榎木は何位だったよ」
「…………」
何となく言い辛そうな表情に
「遅かったのか?」
と聞くと
「さ…3位…」
余りの成績に絶句。
何で本当に帰宅部なんだよコイツら!!
「やっ!あの時はたまたまで!! 本当は僕長距離は苦手で」
慌てた様子で顔の前で両手をブンブン振る。
「たまたまで3位とか取れるか!…あ、」
「えーのきっ」
「わっ」
榎木の後ろから穂波が抱き着く。
「な、何?」
「癒してもらいに」
俺も中橋に奇襲をかけられたが、既(すんで)で躱す。
いつまでも榎木に引っ付いてると、ホラ…
「離せバカ」
藤井の蹴りが穂波に入った。
「ってぇ!おまっ、これから走るって時に…!!」
「知るか」
蹴られた腰を摩りながら涙目の穂波に「バカだな」「あぁ、バカだ」と布瀬と言い合っていると、俺と榎木の番が来て呼ばれた。
「じゃ、行ってくる」
「おぅ」
榎木は藤井の右手に自らの右手をパチン!とハイタッチして、俺と一緒にコースへ向かう。
「陸上部の小野崎君に勝てるとは思わないけど、全力で着いて行くからね」と真剣な表情で言われた。
いつものふんわりとした雰囲気は何処へやら。
「俺も負けねぇし」
つか、負けられねぇ。
お互い宣戦布告を目で交わしながら、スタート態勢に入った。
「今回は榎木の勝ちかぁ」
記入されたスコアカードを眺めながら、藤井が嘆いている。
でも、陸上をやってる訳ではない一般生徒の記録としたら大層な記録だ。
つか、陸上部入ってもそこそこ通じる。
「僕は小野崎君と走ったからだよ」
俺に釣られてタイムが上がったと榎木は言う。
まあ、よくある事だ。
因みに、俺は何とか陸上部としてのメンツを保つ事が出来た訳だが。
静かに悔しがってる藤井の顔を、榎木は「自己新~」と嬉しそうに覗き込むモンだから、鼻をギュッとつままれたり…学校でジャレるなコラ。
そんな二人に最早スルーを決め込み
「はぁ~…体育の後の四限目って疲れてるし腹減りピークだし最悪」
「オマケに世界史と来たもんだ」
着替え終えて教室へ向かう時のいつもの決まり文句を垂れながら、学生まだまだ頑張りますよ。
ダルダルの四限目世界史の授業を終えれば、待ちに待った昼休み。
食べ盛りの高校生には、なくてはならない時間だ。
今日は中庭へと移動して、各々昼食を広げる。
「相変わらず、榎木の弁当美味そー」
ちゃんと彩りも調えられたこの弁当は、自分で作っているというから驚きだ。
以前出汁巻き玉子を一切れ貰ったが、マジ美味かった。
「僕がお弁当作れば、父さんもお弁当になるから経済的なんだよ」
何でもないよ~ついでついで…とウズラの茹で卵を頬張り言い放つ16歳男子を俺は他に見た事ないぞ。
まあ、何だ。
ここでうっかり言葉を誤った発言をすると地雷に成り兼ねないから、これ以上何も言うまい。
でも、うん。
(出来た嫁とは、こういう奴を指すんだな、きっと)
声には絶対出さないからな。
昼休みをマッタリ過ごし、午後の授業とHRを終えれば放課後。
放課後は、日直や掃除当番でなければ、部活や委員会、帰宅と各々に散らばる。
「藤井君、今日どうする?」
「俺ん家一加が友達連れて来るって言ってたから、榎木ん家で課題やってく」
「じゃあ、一緒にやろっか」
俺の斜め前の席で、これからの過ごし方を相談をするもんだからな。
「お前ら、朝から晩まで一緒にいて飽きないの?」
つい言ってしまった。
「小野崎――…」
藤井がコソッと耳打ちしてきた。
「榎木にどんなに "好き"って言われても飽きないんだわ、これが」
「――――っ!!」
顔色変えずにイケシャアシャアとのたまいましたよ、コイツは!
つか、そんな事は聞いてねぇよ!転じて「飽きない」って事だろうがよ!俺のバカ!!
最後、最大の地雷を踏んだダメージを抱えて
「じゃ、榎木また明日な」
と軽く手を振って教室のドアへ向かうと
「うん!部活頑張ってね!」
と無邪気に返事をされた。
明日…明日もきっとこんな一日だろうな。
(でも、絶対地雷は避けたい!)
…俺も他校の彼女に会いたいデス(泣)
-2013.05.01 UP-
2/2ページ