人と人とを繋ぐもの

ピンポーン
藤井宅の前へ辿り着いた拓也は、少し緊張した面持ちで宮前の家と同じインターホンを鳴らす。

「どうぞ」
「お邪魔します」

部屋に上げられ、リビングに顔を出し藤井の家族に「お邪魔します」と声を掛け、行き慣れた彼の部屋へと向かう。


「ごめんなさい」
「ごめんな」

ドアを閉めた瞬間同じ台詞を同時に言った二人。

「えっ…」
「何で…」

そこから先、暫く沈黙が続いたが、先に口を開いたのは藤井だった。

「お前が、寛野の事を嬉しそうに話してた時からヤツに対して苛々してたけど、一加から図書館でお前達が会ってるの見たって聞いたり、昔相談もしてたって聞いたから…」
「藤井君…それって…」
「ヤキモチだよ!カッコ悪りぃ」
顔を真っ赤にして言い放つ藤井に、その新鮮さに拓也は嬉しいやら驚きやらで。

「で、お前の『ごめん』は?」
藤井は自分のいたたまれなさから片手で顔半分を覆い隠し、拓也の言い分を訊く。
「あ…さっき宮前君と会ってて、聞き出したんだ」
「もしかして…」
「うん。僕知らなかったから…藤井君に酷い事言っちゃった…だから、ごめんなさい」

深々と頭を下げる拓也に、藤井は宮前の「バラしてやったぜ」と言わんばかりの顔を思い浮かべ
「あのオシャベリめ」
と悪態を吐く。
「藤井君だって…ゴンちゃんから聞き出したんでしょ?」
僕が寛野先生に相談してた事。
「う…」
バツが悪そうな顔をする藤井に、拓也は「お互い様だよ」と軽く睨む。

「僕は…寛野先生に救われたけど…藤井君にも護られていたんだね」

ありがとう…と満面の笑顔で伝える。


「何か…」
「ん?」
「久し振りに榎木の笑顔見た気がする…」
「藤井君…」
「やっぱ安心するな、榎木の笑顔」
「や、やだなぁ、そんな大層な物じゃないよ」

顔を赤くして照れる拓也が可愛くて。
考えるより先に、ギュッと抱きしめていた。
「ハグも久々」
「ちょっと痛いよ、藤井君」
「充電。久々だからな」
「久々ったって…昨日だけじゃない」
「体感で1ヶ月は空いた感じ」
「何ソレ…」

クスッと笑い合って、触れるだけのキス。
「やっぱり榎木が好きだ、俺」
「…僕もだよ」
「でも、榎木を好きな奴っていっぱいいるからなぁ…」
拓也の肩にうなだれて「ライバル多いぜ」とボヤく。
「えぇーそんな事ないよー藤井君こそ…」
「俺はお前と違ってフラフラ着いて行ったりしないけどな」
「な…!! 僕だってそんな事しないよ!」
「どうだかな」
「僕の事、信じてないんだ?」
酷いーと、頬を膨らませて抗議する拓也をもう一度抱きしめて、
「いや、お前を信じてないんじゃなくて…」

周りがかっさらって行きそうって事。

「…だったら、しっかり捕まえててよね」
拓也は藤井の背中に腕を回してギュッと力を込める。
「了解」
実際、今回連れて行かれそうだったしな。
「え?」
「何でもねぇよ」
拓也のハグに応えるように、藤井も拓也を抱く腕に力を込める。

「ねぇ藤井君?」
拓也は顔を上げて、改めて藤井と目を合わせた。
「何?」
「僕は、僕を取り巻く人達みんな大切だよ」
学校のみんな、ゴンちゃんに森口君、一加ちゃんやマー坊だってそうだし、実に父さん、それに寛野先生も…
「みんながいてくれたから、今の僕がいる。色々教わって、支えられて、思い出があって…僕には、誰一人欠けちゃいけない存在なんだ。その中でも…」
拓也は藤井の目を覗き込むように見詰める。

「藤井君は、特別なんだからね!」

「榎木…」
拓也が周りの人達を大切に想っている事は分かっている。
分かっていた筈なのに、拓也を不安にさせて嫉妬して、何やっているんだ、と藤井は自己嫌悪に陥る。

「本当に悪かった」
言いながら、拓也の前髪を掻き分け額に唇を落とす。
「藤井君、擽ったい」
クスクス笑いながら、頬や瞼にキスを受ける拓也の唇を最後に触れる。
「ん…」

口付けを解いて
「絶対、誰が来ても離さねぇからな」
と告げる。
「うん。僕も離れないよ」
そして今度は、拓也から唇を重ねた。


-2013.04.18 UP-
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