人と人とを繋ぐもの

そんなこんなで放課後になり。
「森口君によろしくね」
「あぁ」
「また、明日…」
「ん」

教室で藤井を見送る。
そんな拓也の様子を見た小野崎が
「めっずらし、今日は別なん?」
と声を掛けて来た。

「今日は昔からの親友と会うんだって」
「え…それって榎木も共通の友達なんだろ?」
「そうだけど…僕は誘われてないし、あの二人は本当に仲がいいんだ」
たまには友情優先も大切!
「……まあ、たまには別行動もいいさね」
少し落ち込み気味の拓也の頭を、小野崎は励ますようにポンと触れる。
「うん。小野崎君、部活は?」
「今から。じゃ、また明日な!」
「バイバイ」
触れられた頭に手をやり、拓也もまた溜め息を一つ吐くと、鞄を持って教室を出た。


一方、藤井は森口と合流して、家の近くの公園にいた。

「拓也が寛野と会ってるってぇ?何で今更寛野?てか奴は教師だろうが」
「目撃情報あるし、榎木自身、前に寛野の事嬉しそうに話してたし」
「分からんなぁ…アイツいい先生だったか?」
まあ確かに後半は砕けた授業やったりはしてたけど。
「お前盾突いて、グランド15周走らされたよな」
プッと藤井を指差して森口は笑う。
「……嫌な事思い出さすなよ…」
「確かに、あの時拓也室長だった事もあって、よく呼び出されてたよな」
「あぁ、それで玉館が贔屓だって騒いでた」
「俺らとは、寛野の印象違うのかもな、拓也には」
ブランコに座ってそんな話をしてると、公園の脇を後藤が通り掛かった。

「あれ、藤井と森口じゃんかぁ!」
久しぶりーと公園へ入って来る後藤。
「お前こんな時間に珍しいな、部活は?」
拓也から「ゴンちゃん部活大変みたいだよー」と聞いている藤井は後藤に問うと
「今日は貴重な休み♪」
と嬉しそうに答えた。
「で、拓也は?」
「あ、馬鹿!!」
森口は今相談されていた渦中の人物の名前をサラリと出した後藤の口を塞ぐ。
まあ、状況を知らない後藤には無理もないが。

「拓也と寛野ー?」
「お前、何か知らないか?」
森口が言うと
「知ってるも何も…今、実の担任だろ?」
うちのヒロは隣のクラスだぜ、とどうでもいい情報まで追加された。
「その位しか…あ、」
「何?何かあんのかよ?」
すかさず森口が食らいつく。
「いや、でも…藤井、何も聞いてないのか?」
「?何を?」
「あー拓也が言ってないんじゃ…俺からは言えねぇな…」
「お前なぁ…そこまで言ったんなら言えよ。場合によっちゃ時効だろ?」
森口が勿体振んなと咎める。
「時効…まあ小学生ン頃だし…」
「何々?」
藤井よりも森口の方が興味津々と身を乗り出している。

「拓也、宮前と揉めてた時あったろ」
あの時…藤井も宮前が妙に拓也に突っ掛かって来るのが気に掛かり、宮前に一喝をした事があった。
「あの時、拓也 寛野先生と何回か会って相談してたみたいだぞ」

「――――!!」
「あー、それでかぁ、拓也が寛野と親密に見えるのは」
成る程成る程、謎が解けた、と森口は納得する。
「あの時、拓也ストレスで胃壊したんだよな」
「は?休んでたの風邪じゃなかったのかよ」
「違ぇよ、胃炎」
「拓也…繊細だなぁ」
ホロリと涙をちょちょ切らせる森口は
「だとよ、あとは昭広の捕らえ方次第じゃね?」
拓也を信じるのも、疑うのも。
後藤と森口の会話を黙って聞いていた藤井に、森口はあとは自分で判断しろ、と投げかける。
「あぁ…」

「まあ、胃を壊す程悩んでた時に相談に乗ってたのは、ポイント高いよな」
「おい、それ余計な一言…」
後藤がコソッと森口に言う。
「いいのいいの。さて、昭広どうするか見物(みもの)~」
「お前、性格悪いな…」



次の日、駅までの道程で拓也は藤井に会う事はなかった。
(あれ?藤井君、どうしたかな?)
体調崩して休みなら…メール入る筈…
ケータイを確認してみるも、その痕跡はなく。
(まさか…避けられてる…とか?)

一抹の不安が駆け巡るのをブンブンと頭を振って掻き消す。
(知らなかったな…)
こんなに脆いなんて。
少しのすれ違いで、人との繋がりなんて簡単に壊れるんだ…
(いやいやいやいや、まだ壊れてないし!!)
前向きに、前向きに。
いつもの時間にホームに滑り込む電車に、拓也は一人で乗り込んだ。

4限目になっても姿を現さない藤井に、拓也の今朝の前向きな心はすっかり折れていた。
連絡も入らないままその4限目も終了し、小野崎達が「飯行こうぜー」と誘う。
「食欲ない…」
と机に項垂れている拓也の耳に穂波の声が入った。

「あれ、藤井ー!!」

ガバッと上体を起こし、教室の入口を見る。
「お前、超重役出勤だな」
「るせ、寝坊だよ寝坊」
と言いながら、藤井は拓也の席に来る。
「ちょっといいか?」
「う…うん」
昨日と何ら変わらない藤井の様子に若干ビクつきながらも、拓也は誘いに応じた。
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