人と人とを繋ぐもの
「ねぇ、拓也お兄様って寛野先生と仲良いのね」
突然一加が言い出したのは、それから数日経ったある日だった。
「は?」
自分の生活圏内では限りなく出てこない筈のかつての臨時教員、今は恋人の弟の担任だったか?の名前がその恋人の名とセットで出て来た事に、藤井は一瞬耳を疑った。
「市立図書館で一緒にいるトコ見たの」
選んだ本を手に取って、その本を介して会話をする。
それはそれは楽しそうで…。
「何か知的なツーショットで声掛けそびれちゃった」
ホゥ…と両頬に手を当てて溜め息を吐いた一加はニヤリと兄を見上げ
「昭広兄ちゃんより、お似合い」
と言い放った。
「な…!!」
「そのうち盗られちゃうかもねー?」
「一加ー!!」
「キャー!!」
言いたい事を言いたいだけ言って、一加は急いで女子部屋に逃げ込む。
いや、今は小生意気な妹なんてどうでもいい。
(榎木と寛野…?)
「いやいや、相手は教師だし」
教師…だけど。
『実の担任って、寛野先生なんだよ』
『寛野先生と、色々話したんだ』
実の父兄面談で、普通自分の事話すか?
普通実の事だろう。
それに、かつてない程の読書量。
それまでだって、自分よりは断然拓也の方が読書はしていた。
でも、ここまでハマっていた事はなかった。
(寛野が一緒に選んでいるから…?)
イラッ。
元々当時から気に入らなかった臨時教員。
たかだか1ヶ月だけの代任で、今後一切自分に関わる事のない…寧ろ忘れ去られていたその存在が、今になって厄介な存在になろうとは、当時12歳だった自分が知ったらどれだけ憤慨する事か。
イライライライラ。
段々と苛々が募り、拓也にメールをしようかとケータイを一度手にするが、
「…………」
何をどう打てばいいのか思い付かない。
「クソッ」
取り敢えずそこにあったリビングのごみ箱を蹴りつける。
「何してるのよ昭広!!」
一加が部屋に来た事で、受験勉強に邪魔が入ったと丁度リビングに来た浅子に咎められる。
「何があったか知らないけど、男のヒステリーはみっともないわよ」
「そんなんじゃなくて…」
「じゃあ、何よ?物に八つ当たりなんて我が弟ながらダサイわね」
「~~~~っ寝る!!」
「おやすみぃ」
(我が家の女共は揃いも揃って…!!)
ふて寝をするしかない藤井だった。
(情けねぇな…クソッ)
次の日。
「藤井君、おはよ」
「…………」
(あ、あれ?)
ニッコリ笑ったままの拓也の顔を無言で眺める藤井の機嫌が悪い事は、鈍い拓也にも安易に伝わった。
藤井は一つ溜め息を吐くと
「今日、放課後 仁志と会うから、別行動な」
と拓也に告げた。
昨夜、落ち着かないイラ付きを森口に相談しようとメールしたのだった。
「え!? そうなの?わかった…」
「…………」
(何怒ってるのかなぁ…)
暫く様子を見よう、森口君と会うなら、きっと少なくとも明日には機嫌は治るだろうし…。
そう思った拓也は、黙って藤井と共に電車に乗り込んだ。
朝から藤井の不機嫌っぷりは、周りも怯えさせる勢いだった。
「榎木!!コイツ何でこんなに不機嫌なんだよ」
「何かするわけじゃないけど、オーラが怖い!!」
「僕にも何が何だか…」
そんな状態で昼休みを迎えた拓也は、心辺りはないが、やはり自分が原因なのかもと思い、特別棟の方の屋上へ藤井を連れ出した。
「藤井君…僕、何かしたかな?」
恐る恐る藤井に尋ねる。
「何でそう思う?」
「だって…今日藤井君、全然僕の方見ない」
一つ大きく溜め息を吐くと、藤井は口を開いた。
「寛野と会ってるって…」
「寛野…って先生?」
んー会ってるって言うか…
「図書館で、よく会うよ」
平然と拓也は答える。
「色々ね、オススメの本とか教えてくれるんだ」
「何で、そんなに寛野に関わる?」
「え…?」
いくら弟の担任と言えど、親しすぎやしないか?
「前も変だと思った…実の面談で、何自分の事話してるんだよ」
「それは…っ」
藤井は知らない。
拓也が昔、宮前の件で寛野に相談をしていた事を。
「藤井君には関係ない…」
フイッと視線を反らし、拓也の口から吐いた言葉は藤井を突き放すには十分だった。
「分かった…」
「それって…僕の事信用してないって事?寛野先生は実の担任ってだけだよ!?」
「じゃあ何でプライベートで会ってんだよ!」
「藤井君…」
「ちょっと一人にしてくれ…」
そう言って拓也の脇を通り、藤井は校舎へと入って行く。
拓也はカシャンとフェンスに凭れ掛かり、そのままズルズルと腰を下ろした。
「…………」
(これって…僕が悪いのかな?いやでも、何もやましい事ないし…)
大体何で先生相手にそんな事…?
僕ってそんなに信用ない?
『藤井君には関係ない…』
「あ…」
酷い事、言った。
理由はどうあれ、知らない事に対して関係ないなんて言ったら、誰だって嫌な気分になる。
「後でちゃんと謝らなきゃ…」
あとは森口君に任せよう。
きっと彼なら、僕よりも藤井君の事解ってる。
悔しいけど、親友には敵わないところもあるのだ。
突然一加が言い出したのは、それから数日経ったある日だった。
「は?」
自分の生活圏内では限りなく出てこない筈のかつての臨時教員、今は恋人の弟の担任だったか?の名前がその恋人の名とセットで出て来た事に、藤井は一瞬耳を疑った。
「市立図書館で一緒にいるトコ見たの」
選んだ本を手に取って、その本を介して会話をする。
それはそれは楽しそうで…。
「何か知的なツーショットで声掛けそびれちゃった」
ホゥ…と両頬に手を当てて溜め息を吐いた一加はニヤリと兄を見上げ
「昭広兄ちゃんより、お似合い」
と言い放った。
「な…!!」
「そのうち盗られちゃうかもねー?」
「一加ー!!」
「キャー!!」
言いたい事を言いたいだけ言って、一加は急いで女子部屋に逃げ込む。
いや、今は小生意気な妹なんてどうでもいい。
(榎木と寛野…?)
「いやいや、相手は教師だし」
教師…だけど。
『実の担任って、寛野先生なんだよ』
『寛野先生と、色々話したんだ』
実の父兄面談で、普通自分の事話すか?
普通実の事だろう。
それに、かつてない程の読書量。
それまでだって、自分よりは断然拓也の方が読書はしていた。
でも、ここまでハマっていた事はなかった。
(寛野が一緒に選んでいるから…?)
イラッ。
元々当時から気に入らなかった臨時教員。
たかだか1ヶ月だけの代任で、今後一切自分に関わる事のない…寧ろ忘れ去られていたその存在が、今になって厄介な存在になろうとは、当時12歳だった自分が知ったらどれだけ憤慨する事か。
イライライライラ。
段々と苛々が募り、拓也にメールをしようかとケータイを一度手にするが、
「…………」
何をどう打てばいいのか思い付かない。
「クソッ」
取り敢えずそこにあったリビングのごみ箱を蹴りつける。
「何してるのよ昭広!!」
一加が部屋に来た事で、受験勉強に邪魔が入ったと丁度リビングに来た浅子に咎められる。
「何があったか知らないけど、男のヒステリーはみっともないわよ」
「そんなんじゃなくて…」
「じゃあ、何よ?物に八つ当たりなんて我が弟ながらダサイわね」
「~~~~っ寝る!!」
「おやすみぃ」
(我が家の女共は揃いも揃って…!!)
ふて寝をするしかない藤井だった。
(情けねぇな…クソッ)
次の日。
「藤井君、おはよ」
「…………」
(あ、あれ?)
ニッコリ笑ったままの拓也の顔を無言で眺める藤井の機嫌が悪い事は、鈍い拓也にも安易に伝わった。
藤井は一つ溜め息を吐くと
「今日、放課後 仁志と会うから、別行動な」
と拓也に告げた。
昨夜、落ち着かないイラ付きを森口に相談しようとメールしたのだった。
「え!? そうなの?わかった…」
「…………」
(何怒ってるのかなぁ…)
暫く様子を見よう、森口君と会うなら、きっと少なくとも明日には機嫌は治るだろうし…。
そう思った拓也は、黙って藤井と共に電車に乗り込んだ。
朝から藤井の不機嫌っぷりは、周りも怯えさせる勢いだった。
「榎木!!コイツ何でこんなに不機嫌なんだよ」
「何かするわけじゃないけど、オーラが怖い!!」
「僕にも何が何だか…」
そんな状態で昼休みを迎えた拓也は、心辺りはないが、やはり自分が原因なのかもと思い、特別棟の方の屋上へ藤井を連れ出した。
「藤井君…僕、何かしたかな?」
恐る恐る藤井に尋ねる。
「何でそう思う?」
「だって…今日藤井君、全然僕の方見ない」
一つ大きく溜め息を吐くと、藤井は口を開いた。
「寛野と会ってるって…」
「寛野…って先生?」
んー会ってるって言うか…
「図書館で、よく会うよ」
平然と拓也は答える。
「色々ね、オススメの本とか教えてくれるんだ」
「何で、そんなに寛野に関わる?」
「え…?」
いくら弟の担任と言えど、親しすぎやしないか?
「前も変だと思った…実の面談で、何自分の事話してるんだよ」
「それは…っ」
藤井は知らない。
拓也が昔、宮前の件で寛野に相談をしていた事を。
「藤井君には関係ない…」
フイッと視線を反らし、拓也の口から吐いた言葉は藤井を突き放すには十分だった。
「分かった…」
「それって…僕の事信用してないって事?寛野先生は実の担任ってだけだよ!?」
「じゃあ何でプライベートで会ってんだよ!」
「藤井君…」
「ちょっと一人にしてくれ…」
そう言って拓也の脇を通り、藤井は校舎へと入って行く。
拓也はカシャンとフェンスに凭れ掛かり、そのままズルズルと腰を下ろした。
「…………」
(これって…僕が悪いのかな?いやでも、何もやましい事ないし…)
大体何で先生相手にそんな事…?
僕ってそんなに信用ない?
『藤井君には関係ない…』
「あ…」
酷い事、言った。
理由はどうあれ、知らない事に対して関係ないなんて言ったら、誰だって嫌な気分になる。
「後でちゃんと謝らなきゃ…」
あとは森口君に任せよう。
きっと彼なら、僕よりも藤井君の事解ってる。
悔しいけど、親友には敵わないところもあるのだ。