「また明日」

学校に着いて受け付けをし、男子生徒は講堂に案内され採寸を受ける。

「ワンサイズ大きいのにしとくか?」
「…希望を持って」
「まあ、まだ伸びるだろ」
俺も高校ン時にも伸びたし…と春美はサイズ表の該当の欄にチェックと購入枚数を記入し、購入手続きの受付へ。
採寸を終えた拓也は、一度脱いだ学ランを身につけながら、藤井君終わったかなぁとぼんやり思っていた。

「拓也、じゃパパは今から会社行くから、採寸も手続きも終わったし、あとは大丈夫だな?」
手続きを終えて拓也のところヘ戻ると、春美は拓也に告げた。
「うん、今日はありがとうパパ。行ってらっしゃい」
今日の高校での予定はこれでおしまい。
あとは帰るだけだ。

春美と別れて藤井を捜す。
すると、藤井も終わって拓也を捜していたようで「見つけた」と後ろから肩をポンと叩かれた。
「終わったか?」
「うん。おじさんは?」
「大学行った。そっちも?」
「うん仕事行ったよ。…帰ろうか?」
「そうだな」

まだ講堂の中には結構な人数の中学生と、その保護者がいる。
「この中に、新しく友達になる人とかいるんだろうね」
「そうだな」
「ゴンちゃんや森口君みたいな人いるかな?」
「クネクネダンス踊る奴は後藤しかいないだろうな」
「…確かにね」
あははと二人で笑いながら講堂を出、校内を歩く。

今日は休校になっており、新入学者達の案内係以外の在校生はいない為、彼等の往来はあるものの校舎内は静かだった。
「購買部とか校舎内に自販機があったりとかすると、やっぱり中学までとは違うって実感するよね」
ニコニコと「ちょっとだけ大人になった気分」とはしゃぐ拓也に「子供みてぇ」と笑って返しながら、藤井はそこにあった自販機に小銭を投入する。
拓也は子供みたいと言われムッと頬を膨らましそっぽを向いた。
「もー、相変わらずクールだなぁ藤井君は…」
「ん、」
そんな拓也に差し出された1本のコーヒー缶。
「お初の1本という事で」
「あ、ありがとう」
素直にお礼を言って受け取る。
「お金…」
「今はいいや。入学したら1本奢って貰う」
「うん!」
「じゃあまずは、」
「お互いの合格を祝して」

乾杯!

コツンと缶をぶつけた。


昇降口を出て校門に向かう。
校門前のロータリーには桜の樹。
蕾が大分膨らんで来ている。
中にはせっかちの花が数輪開いていた。
「入学式には満開だね」
4月から始まる、これまでとは全く違う学校生活に不安やら期待やら色々入り混じって気持ちは逸る一方の拓也だが、その先に辿り着くのは、やはり楽しみだという事。
(藤井君と同じ高校に通えるんだもん…きっと楽しい三年間になる)

桜を見上げ、新生活ヘと想いを馳せる。

「なあ、榎木」
「え、あ、何?」
一人物思いに耽っていた拓也は不意に藤井に声を掛けられ、慌てて答える。

「また言えるな」
「何を?」
「"また明日"」
「あ…!」

それはかつて交わした会話。

『榎木と4月からも"また明日"って言いたいな』
『!ぼ、僕も!』

「結構…受験勉強の励みになった」
「藤井君…」

"また明日"――この言葉を交わすという事は、次の日も共に過ごす時が在るという事で。
それを毎日交わせられるという事は、共に同じ目標に向かって切磋琢磨した結果と証。
その一言が励みになっていたのは、拓也もまた同じだった。
(嬉しい…)
改めて、思う。

「榎木、また三年間よろしくなー」
ニッと笑って、あの時と同じVサイン。
「こちらこそ!」
拓也も同じようにVサインを差し出す。


「…でも、一学年10クラスあるんだよな」
「同じクラスになれたら奇跡…かもね」


桜満開の晴れの日、クラス発表の掲示板を見るのは、あと数週間先のお話―――。


電車を降りて、分岐地点。
「また、明日」
それは変哲もない挨拶にすぎないけど、実は次の一日を重ねる大切な一言なのです。


-2013.03.28 UP-
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