夜の散歩道

「あった♪」
夜のコンビニに拓也は来ていた。
滅多にコンビニに、ましてや夜になんて訪れない彼が珍しく買い物に来ている理由は、シャープペンの芯が切れたから。
勉強雑貨は勿論、生活雑貨や調味料に至るまで常備品・消耗品をチェックして切れる前にストックする彼が、それを切らす事自体珍しい事だが、まあ、人間だもの、たまにはそういう事もあるだろう。

そして、どうせ外に出るならば、勉強の息抜きも兼ねて散歩、少し遠くまで―――最寄りのコンビニを通り越し、彼の家の近く…"藤井君の行きつけの店まで行ってみようか"と、足を運んだ。

目的の物と一緒に、缶コーヒーを1本、キシリトールのガム1つを持ってレジへ。
精算を終えると、客が一人入って来た。

「あっ!!」
「榎木!?」

全然期待していなかったと言ったら嘘になる。
でも、本当に会えるなんて思わなかったから、やっぱりここまで来てよかったと、拓也は思った。

「榎木がこんな所にいるなんて珍しいな」
「うん、シャーペンの芯切らしちゃって…藤井君は?」
「俺?別に特別用があるわけじゃないけど…まあ小腹満たす為?」
そう言いながら、慣れた足取りで店内を回り、ペットボトル1本と菓子パン2~3コ見繕ってレジへ持って行く。
店員から「いつもありがとうございます」と声を掛けられてる辺り、相当通っている事が伺える。

精算を終え、二人で外に出る。

「………」
ここのコンビニは、店を挟んで藤井の家は向こう側、拓也の家はこちら側、当然反対方向になる訳で…。
でも、折角会えたんだから、このまますぐ「じゃあね」とも言いたくない…と思ってるのは、僕だけかな…と、チラッと藤井を見ると、藤井もまた拓也を見ていた。

「少し、散歩しようぜ?」
「!うん!」
(藤井君も、同じ気持ちでいてくれたのかな?)
自意識過剰かもしれない…けど、藤井の言葉が嬉しくて、心が暖かになるのは事実。


住宅街、人通りがほぼほぼない時間、路地。
「ほら」
藤井が手を差し出す。
普段、やはり人前で手を繋ぐ事を躊躇う事が多い為(それでも藤井から手を取られる事もあるが)、改めて意識するとドキドキする。
でも、拓也だって嫌いじゃない。
「…うん」
素直に、自らの手をそっと重ねる。
ふわっと包み込むように握られた手が、拓也の緊張を落ち着かせる。
ドキドキする鼓動ですら、心地良い。

(手を繋ぐって…こんな気持ちになるものだっけ…)

相手が藤井君だからなのか、人目を気にしなくて良い状況だからなのか…

(多分、両方…だよね)

そんな事を考えていたから、藤井の言葉を聞き逃した。

「―――…だ?」
「え?」

「何でこんな所まで来てたんだ?って。榎木ン家の近くに、別のコンビニあるだろ?」

「あ…」

それは、小さな下心。

「えっと…課題やってたんだけど、途中でシャーペンの芯切れたから、買い物ついでに息抜きしようと思ってプチ遠出」

これは、嘘じゃない。

「ふーん…?」

顔を覗きこまれると、本心を見透かされそうで…。

「ふ、藤井君はやった?数学の課題!」
咄嗟に話題を変える。
「いつまでだっけ?」
「次の授業までだから…明後日?」
「あーやってねぇ…帰ったらやるかぁ…」
めんどい~と項垂れる藤井の様子に拓也はクスリと笑う。

「プチ遠出、息抜きになったか?」

不意に聞かれ、今度はドキリとする。

「うん…」

繋いでる手をギュッと握る。

「藤井君に会えたし…」

「………ん?」

「………え?」

「今、聞こえなかった」

周りは至って静か。

「う、嘘だぁ…?」
「何て言った?」
「ほんとに?」
「うん」

………………。

「藤井君に会えたから、息抜きの効果バツグンだよ!」

「聞こえな」
「い筈ないよね?」

(お、いつになく強気)

ニッコリ笑って、それ以上は言わせないよ?と無言の圧力。

「もっと言わせたかったのに…残念」
素直に降参。
「そうそういつも、藤井君のペースには乗らないよ」
今日は僕の勝ち!

生意気

あはは


じゃれ合いながら夜道を歩いていたら、いつの間にか小学校まで来ていた。

「…随分遠回りして来ちゃったね」
「そうだな…」

ま、いっかと笑い合う。
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