森林公園にて
最寄駅で降りて、駅前の案内板で方向確認。
「どうする?バス乗る?」
「まあ、公園までの道程もそんな複雑じゃないっぽいし、15分程度なら歩くか?」
「そうだね」
駅員に簡単に公園までの道筋を聞いて出発。
途中のコンビニでおにぎりやサンドイッチを買って、お昼も調達した。
公園に近付くに連れて段々と長閑になり、散歩するには持ってこいな環境。
自然と、手を繋いでいた。
公園に入ると、木々に覆われた遊歩道が奥まで続き、その南側には湖が広がっていた。
「うわぁ…」
整備された遊歩道には木漏れ日、脇には芝生、風が頬を撫でると葉の擦れる音が響く。
「凄いな…」
「うん」
キョロキョロと辺りを見渡しながら、遊歩道を歩く。
葉が騒めく音に混ざって小鳥の囀りが響く。
歩みを進めると比例するように、自然と五感とが溶け合う感覚。
湖の北側の遊歩道を半分程通過する辺りに、時計塔が建っていた。
時間を確認すると、丁度お昼過ぎ。
「ここら辺で食うか?」
コンビニの袋を掲げる藤井。
「そうだね」
クスッと笑って拓也も同意する。
時計塔を中心にベンチや屋根付きの木製のテーブルセットが備えてあるが、二人は湖の滸に下りて腰を下ろした。
「鴨がいる」
「しかも結構な数だな」
鴨以外にも、様々な水鳥が浮かぶ様子を眺めながら、二人はお腹を満たしていく。
「気持ちいいね…」
「ん…」
「あ、満腹に一夜漬けの影響が」
出てるでしょ?と笑って拓也は藤井を揶揄う。
「おー…ねみぃ」
素直に眠気を訴える藤井に
「寝ていいよ。暫くしたら起こしてあげる」
と、拓也は既に横で寝転がってる藤井の額に掛かる髪に触れながら「おやすみ」と言う。
瞼を閉じる恋人の顔を眺めた後、風に合わせて湖面に出来るさざ波の音を楽しむように、拓也もまた目を閉じて耳を傾けた。
(長閑だなぁ…)
学校の屋上も気持ちいいけど、やっぱりアスファルトと芝生では全然違う。
中庭は芝生だけど、校舎に阻まれて見える空は狭い。
けれどここは、瞳を開けば視界いっぱいに広がる湖と空。
向こう岸には、小高い丘になってる芝生が見える。
(向こう側は森林の遊歩道じゃなくて、広場になってるのかな?)
湖を一周するには、かなりの距離。
(また来る事があったら、今度は向こう岸に行ってみたいな)
…うん、また来たい。
隣で眠る恋人を眺める。
「また、来ようね」
笑顔でその寝顔に呟いて、額に触れるだけのキスを落とした。
不思議と飽きる事なく湖や空を眺めていたが、風が冷たくなって来た事に拓也は気付く。
時計を見たら、結構な時間が経っていた。
「藤井君、起きて」
ゆさゆさと身体を揺らして藤井を起こしにかかる。
「ん…」
「風が冷たくなって来たから…風邪引くよ?」
「おー…」
藤井はまだ眠そうにしているが、一応は起きたらしく上体を起こし、そのまま伸びと欠伸をする。
「おはよ」
ニッコリ笑顔を見せる恋人に、藤井も笑顔で「ん」と短く返事をして拓也の頭にくしゃりと触れる。
「スッキリした?」
「おーバッチリ」
「よかった」
「榎木は?」
「僕も」
藤井に満たされた笑顔を見せる。
ずっと、湖と空見てた。
ずっと!?
ん…でも全然飽きなかったよ。
そんな顔してる。
え!?どんな顔!?
「また、来ような…って言いたくなる顔」
優しい笑顔と一緒に放たれたそれは、拓也が今一番欲しかった言葉。
見透かされた気持ちに、さっと顔が染まる。
「うん、また来たい…」
染まった顔を隠す為下を向き、視界に入った藤井の服の裾をきゅっと握る。
藤井はそんな拓也の様子にクスリと笑う。
そして、その手を取って握り直し「帰るか」と歩き出す。
元来た道を歩いていると、陽の色が次第にオレンジ色に。
すると、また湖は違う顔を見せる。
「わぁ…」
昼間とはまた違う、一層煌めきを増した湖面を見て、拓也は感嘆の声を上げる。
「自然って凄いな」
「ホント…」
学校帰りに見る夕日と、同じ物の筈なのに…。
湖を見ながら、二人は公園の出入口を目指した。
タタン タタン タタン タタン
帰りも人の少ないローカル列車。
公園で、目一杯五感をフル活用して楽しんだ拓也は、電車の中ではすっかり夢の中。
躊躇いなく肩に頭を預けて眠る恋人に、今度は藤井が「来てよかったな」と呟き、額にキスを落とす。
明日から、またいつもの学校、いつもの日常。
繰り返される日々の合間に、またこんな日が訪れるように、毎日を何気なく、時に一生懸命に彼等は過ごすのです。
-2013.03.06 UP-
「どうする?バス乗る?」
「まあ、公園までの道程もそんな複雑じゃないっぽいし、15分程度なら歩くか?」
「そうだね」
駅員に簡単に公園までの道筋を聞いて出発。
途中のコンビニでおにぎりやサンドイッチを買って、お昼も調達した。
公園に近付くに連れて段々と長閑になり、散歩するには持ってこいな環境。
自然と、手を繋いでいた。
公園に入ると、木々に覆われた遊歩道が奥まで続き、その南側には湖が広がっていた。
「うわぁ…」
整備された遊歩道には木漏れ日、脇には芝生、風が頬を撫でると葉の擦れる音が響く。
「凄いな…」
「うん」
キョロキョロと辺りを見渡しながら、遊歩道を歩く。
葉が騒めく音に混ざって小鳥の囀りが響く。
歩みを進めると比例するように、自然と五感とが溶け合う感覚。
湖の北側の遊歩道を半分程通過する辺りに、時計塔が建っていた。
時間を確認すると、丁度お昼過ぎ。
「ここら辺で食うか?」
コンビニの袋を掲げる藤井。
「そうだね」
クスッと笑って拓也も同意する。
時計塔を中心にベンチや屋根付きの木製のテーブルセットが備えてあるが、二人は湖の滸に下りて腰を下ろした。
「鴨がいる」
「しかも結構な数だな」
鴨以外にも、様々な水鳥が浮かぶ様子を眺めながら、二人はお腹を満たしていく。
「気持ちいいね…」
「ん…」
「あ、満腹に一夜漬けの影響が」
出てるでしょ?と笑って拓也は藤井を揶揄う。
「おー…ねみぃ」
素直に眠気を訴える藤井に
「寝ていいよ。暫くしたら起こしてあげる」
と、拓也は既に横で寝転がってる藤井の額に掛かる髪に触れながら「おやすみ」と言う。
瞼を閉じる恋人の顔を眺めた後、風に合わせて湖面に出来るさざ波の音を楽しむように、拓也もまた目を閉じて耳を傾けた。
(長閑だなぁ…)
学校の屋上も気持ちいいけど、やっぱりアスファルトと芝生では全然違う。
中庭は芝生だけど、校舎に阻まれて見える空は狭い。
けれどここは、瞳を開けば視界いっぱいに広がる湖と空。
向こう岸には、小高い丘になってる芝生が見える。
(向こう側は森林の遊歩道じゃなくて、広場になってるのかな?)
湖を一周するには、かなりの距離。
(また来る事があったら、今度は向こう岸に行ってみたいな)
…うん、また来たい。
隣で眠る恋人を眺める。
「また、来ようね」
笑顔でその寝顔に呟いて、額に触れるだけのキスを落とした。
不思議と飽きる事なく湖や空を眺めていたが、風が冷たくなって来た事に拓也は気付く。
時計を見たら、結構な時間が経っていた。
「藤井君、起きて」
ゆさゆさと身体を揺らして藤井を起こしにかかる。
「ん…」
「風が冷たくなって来たから…風邪引くよ?」
「おー…」
藤井はまだ眠そうにしているが、一応は起きたらしく上体を起こし、そのまま伸びと欠伸をする。
「おはよ」
ニッコリ笑顔を見せる恋人に、藤井も笑顔で「ん」と短く返事をして拓也の頭にくしゃりと触れる。
「スッキリした?」
「おーバッチリ」
「よかった」
「榎木は?」
「僕も」
藤井に満たされた笑顔を見せる。
ずっと、湖と空見てた。
ずっと!?
ん…でも全然飽きなかったよ。
そんな顔してる。
え!?どんな顔!?
「また、来ような…って言いたくなる顔」
優しい笑顔と一緒に放たれたそれは、拓也が今一番欲しかった言葉。
見透かされた気持ちに、さっと顔が染まる。
「うん、また来たい…」
染まった顔を隠す為下を向き、視界に入った藤井の服の裾をきゅっと握る。
藤井はそんな拓也の様子にクスリと笑う。
そして、その手を取って握り直し「帰るか」と歩き出す。
元来た道を歩いていると、陽の色が次第にオレンジ色に。
すると、また湖は違う顔を見せる。
「わぁ…」
昼間とはまた違う、一層煌めきを増した湖面を見て、拓也は感嘆の声を上げる。
「自然って凄いな」
「ホント…」
学校帰りに見る夕日と、同じ物の筈なのに…。
湖を見ながら、二人は公園の出入口を目指した。
タタン タタン タタン タタン
帰りも人の少ないローカル列車。
公園で、目一杯五感をフル活用して楽しんだ拓也は、電車の中ではすっかり夢の中。
躊躇いなく肩に頭を預けて眠る恋人に、今度は藤井が「来てよかったな」と呟き、額にキスを落とす。
明日から、またいつもの学校、いつもの日常。
繰り返される日々の合間に、またこんな日が訪れるように、毎日を何気なく、時に一生懸命に彼等は過ごすのです。
-2013.03.06 UP-
2/2ページ