森林公園にて

タタン タタン タタン タタン

電車に揺られて今日は遠出。

試験が終わった開放感から、試験休みの平日の今日、少し遠くへ遊びに行こうという事になり、電車に乗り込んだ。

駅前の本屋で買ったローカルガイドを手に、何処へ行こうかと二人でマップページを覗き込む。

「あ、藤井君、ここ森林公園だって」
目に入った公園マークを拓也は指を差す。
「別ページにガイド載ってるな…13番…」
該当の番号とページを照らし合わせて、ガイドを開く。

最寄駅と駅からのアクセス、その所要時間、施設説明が写真付きで紹介されている。

「駅から徒歩15分又はバス5分、湖を囲んだ森林公園。四季折々の植物、野鳥観察を楽しめ、野生の小動物も生息する―――だって」
紹介文を読みながら、拓也の声が弾んでいくのが分かる。
「行ってみるか?」
「いいの?」
「試験で一夜漬け続きだったから、緑に囲まれてのんびりするのも悪くないなーって」
(なんてのは、半分建前だけど)
拓也の声色が「行きたい」って言っているのに、無視出来る藤井ではない。

「藤井君、一夜漬けしたんだ?」
「最終日の古典と、その前の歴史学。暗記物は一夜漬け」
「藤井君…」
(それで成績いいんだから悔しいよなー)
総合的には拓也の方がほんの少し上だけども。
「だから自然の中で癒して」
そんな事を言いながら、藤井は拓也の腰に手を回し、肩に頭をコテンと預ける。
「あ、コラ!」
人に見られる、と抵抗するが
「こんな平日の昼間のローカル線、誰もいないし来ねぇよ」
そもそも二人掛けのボックス席だし、とますます腕に力を込めてくっつく。
「あーもー力じゃ敵わない事知ってて…卑怯者」
恥ずかしくて拓也はガイドブックで顔を隠した。

(お…)
「何とでも」
拓也の手首を掴んでずらし、ガイドブックの陰でちゅっと口付ける。

「なっ…!?」
反射的にガイドブックで藤井の頭をはたく。
「ってぇ」
「何する…っ」
真っ赤になって狼狽える拓也。
「自分で陰作ったくせに」
はたかれた頭を自分で撫でる藤井。
「そういうつもりじゃないよ!!」
「あーもー、煩いのも可愛い」
言いながら、再び拓也の肩に頭を凭れ掛けさせる。
「藤井君…試験終わってネジ緩んでるでしょ?」
こういう時の藤井は何を言っても無駄だという事を拓也は知っている。

(…確かに他に人がいるわけでもないし…)
旅の恥は掻き捨て、遠出して普段は来る事のない場所。
(流されて…みようかな…)
試験が終わって、拓也も少なからず開放感はある。
自分の肩にある藤井の頭に、拓也もおずおずと自分の頭を寄せる。

そんな拓也の様子に、藤井は満足そうな表情になり、二人の身体の間でギュッと手を繋いだ。
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