Triangle-Caprice

今日の予定は、藤井君の家に行く事。

休日の今日、特に何をするわけでもないが、取り敢えず藤井宅へ行き、それから何をするか出掛けるなら何処へ行くか決めようという事になり、拓也が藤井家へ向かっている最中。

―――♪

藤井からメールが届いた。

『ちょっとコンビニ行ってくるから、着いたら友也兄がいるから上がって待ってて』

それに対して、拓也も何の抵抗もなく

『了解』

と返信する。

「友也さんかぁ…会うの久しぶりだなぁ」

友也は藤井の5つ上のお兄さん。
今は大学3年生で、普段は家にいない。
今週末は祝日が重なり連休になっているから、帰省しているのだろうか。
とても気さくな性格で、拓也も昔から親しみを持って接していた。

藤井宅へ着いて、インターホンを鳴らす。

『へーい』
藤井に似た、でも少し違う声がインターホン越しに聞こえる。
「あ、榎木です」
『はいはーい、ちょっと待って』
ガチャリと受話器を置く音の後すぐ
「いらっしゃい」
とドアが開けられる。

「こんにちは、お久しぶりです」
拓也が丁寧に挨拶すると
「久しぶり」
と、友也も笑顔で返して部屋に招き入れてくれた。

リビングへ通され、ソファーに座るよう勧められる。
コーヒーでいいか聞かれ、お構いなくと拓也は返事をするが、俺が飲みたいからと、一緒に淹れてくれた。

「ありがとうございます。頂きます」
拓也はそのコーヒーを受け取りお礼を言う。
「どうぞー、相変わらず礼儀正しいね」
「いえ、そんな…」
拓也にとっては至って普通なのだが、無理をせずナチュラルに出るその一連の所作は、一般の高一男子にしてはやはり出来たタイプであろう。

友也は、拓也の座ってる二人掛けソファーの隣の一人掛けソファーに腰を下ろしつつ、拓也に声を掛ける。
「学校の昭広って、どんな感じ?」
「藤井君ですか?」
まあ、普通の他愛もない世間話。
ネタが弟というだけで。

相変わらず、勉強も運動も凄いですよー。
でも、古典の授業は寝ちゃうんです。
実は他の授業も寝てる時あるけど。
あ、この前こんな事ありました。
―――…。

(お?おや…?)
そう、最初は他愛もない世間話…だった。
ところが、話を聞いていくうちに、ある事に気付く。

決定的な内容が決してある訳ではないが、やはりここは彼らより5年長く生きているだけあり、その分経験値もあれば、洞察力もある。
話し方、拓也の様子、まさに好きな人を語るかの如く―――。

そしてそれは、拓也自身は気付いていない…無意識。

そんな様子の拓也に、友也はほんの少し、悪戯心に火が点いた―――。

「拓也君」
「はい?」
いつの間にか、拓也の空いてる隣に移動している友也。
「昭広と付き合ってる?」
ニコニコと、ダイレクトに聞かれる。
「え!?えと…」
藤井君からは言っていない…という事は、僕から言わない方がいいだろうか…
一瞬考えたが、この出来た一瞬の間は、肯定の意味とするには十分な間であって…。

「別に、二人の付き合いに反対するつもりはないよ」
「あ、あの…」
反対しないという言葉に安堵しつつ、戸惑いを隠せない拓也。
「拓也君正直者だから、話し方で駄々漏れ」
ニカっと笑い指摘され、
「えっ!?」
と拓也は一瞬で顔を赤くして、両手で頬を覆う。
「そうそう、そういう反応も」

かかかぁーと更に顔が火照っていく。

(可愛い…)
ウズ。
弟の恋人を横取りするつもりは毛頭ないけども…

「あ、あの、友也さ…」
いつの間にか、更に近くなっている距離。
拓也はソファーの端まで後退るが、そもそも二人掛けの狭いソファー。
すぐに追い詰められ、抱き竦められた。

「や、ちょっ…友也さっ」
「昭広と、どこまでいったの?」
耳元で囁かれる。
一瞬ビクっとしてしまう。
「ど、どこって、何も…!」
「ふーん…?」

耳を掠める吐息と声。
脅える一方で、少し違うけど藤井と似ているその声に、クラリとしかかっているのも事実で。

(藤井君…!)

じわっと涙が滲んで来たその時、

ガチャリとリビングのドアが開き、
「待たせた…」

瞬間、兄を力任せに殴る弟の姿があった。
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