Rehearsal・Valentine

「お人好し」
「うるさいな」
学校帰りにチョコレート作りの材料の買い物。
ショッピングモールで特設コーナーになっていて、必要な物が一カ所に纏まっている。

この「お人好し」「うるさい」のやり取りも何度目か。
「もー、じゃあ何で買い物付き合ってるの?」
「………何となく?」
「何それ」
口ごもる藤井に対して、買い物カゴにチョコレートや生クリームを入れながら拓也は腑に落ちないと言い返す。
「兎に角!一度引き受けたんだから、一加ちゃんの為に責任もってやるからね!」

こうなったら、本来頑固者の拓也。
溶かして固めるだけと言えど、きっと美味しいチョコレートを作り上げるに違いない、と藤井は溜め息を吐きながら思うのだった。



バレンタイン前の最後の日曜日。
藤井家のキッチンに、拓也と一加が立っていた。

「一加ちゃん、一番大事なのは、一番最初のテンパリングなんだ。ここ失敗すると、美味しくなくなっちゃうからね」
「はい!先生!!」
両手を握り拳にして、気合いを入れる一加。

まずは板チョコを包丁で細かく刻むところから始まる。
その様子をキッチンの入口の壁に寄り掛かって見ていた藤井は
「意外に大変なんだな」
と驚いた表情。
「うん、試しに作ったら、意外に奥が深かった」
苦笑しながら答える拓也。

「このテンパリングの温度調整がまた大変なんだよ…」
拓也がチョコを刻んだ先から、一加がそれをボールに移して湯煎に掛ける。
「あ、一加ちゃん、しっかり温度見ながらやってね。絶対55℃以上にしないで」
「はい!」

真剣に温度計を見つめながら、チョコレートを掻き交ぜる。
そんな一加の様子を見ながら
(確かに、恋に年齢は関係ないね)
と、拓也は微笑ましい気分になる。

次第に部屋中にチョコの匂いが広がる。
こりゃ長くなりそうだ、と藤井はリビングに移動し、雑誌を捲った。

数時間後―――
「出来たー!!」
「お疲れ様」
言いながら、出来上がった粒を一つ口に運ぶ。
「うん、美味しく出来てる」
「ほんと!?」
「実、喜ぶよ」
ニッコリ笑って一加を励ます。
「ありがとう、拓也お兄様」
無邪気な一加の笑顔に、恋する乙女もまだまだ子供だと思ったけど、そこが可愛いと拓也は思う。

エプロンを外しながらリビングに行くと、ソファーに座って雑誌を読んでた藤井が顔を上げた。

「終わったのか?」
「何とか」
微笑みながら返事をして、藤井の隣に拓也が座る。
「お疲れ。一加に付き合ってくれて、サンキューな」
藤井がポンと頭に手を載せて撫でると
「うん」
拓也は藤井の肩に頭を預け、素直にその手と言葉を受け入れた。
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