Rehearsal・Valentine

話をしてる途中、ふと目が合う。
そこで普通に続ければいいのに、途切れる会話、変わる空気。

「だ…ダメだよ、藤井君…」
だって、ここは藤井君の部屋で…
リビングには、一加ちゃんやマー坊がいる訳で…

「誰も来ないから、大丈夫…」
なのに、そんな事を耳元で言われちゃうと流される訳で…

藤井君の手が、項に触れる。
反射的に目を閉じて―――…

…タドタドタドタドタドタ
バタン!!!!

「拓也お兄様、お願い!!」

いっ…
「いーちかぁ―――!!!!」

…既(すんで)の所でギリギリセーフ(汗)


「いきなり開けるなノックしろっていつも言ってるだろうが!!」
「あーもう、うるさいわねっ!あたしは今、拓也お兄様に大事なお話があるのよ!!」

藤井と一加のいつもの兄妹ゲンカが始まる。
まあ、藤井の言う事は尤もな事なのだが。
一方で、見られてはイケナイものを危うく見られそうになった事で、いつもは仲裁役の拓也も今回はそれどころではなく、言い争う二人に背を向け、涙目で心臓付近を押さえて動悸を鎮めるのに必死であった。

「―――で!?」
埒の明かない言い争いに無理矢理ピリオドを打ち、まだ額に怒りマークを浮かべたような表情のまま藤井が一加の用件を聞こうと切り出す。

「昭広兄ちゃんに用がある訳じゃないけど、まあいいわ。拓也お兄様!もうすぐあの日が来るわ!」
何とか落ち着いた拓也は、話を聞こうと一加と向き合う。
「?あの日って?」
「相変わらずね、お兄様…2月も半ばと言えば!乙女の決戦の日よ!!」
そこには気合いの入り捲った9歳女児――本人曰く "乙女"の姿があった。

「あー…あぁ」
そう言えばそうだねー。
特に興味がある訳でもない行事に、毎年振り回される年中モテ期の二人は少々ウンザリ気味の返事。

「で、お願いって、何かな?」
拓也は気を取り直して用件を聞く。
「実ちゃんの為に、手作りしたいの。作り方、教えて下さい!!」
一加お得意のウルウルキラキラお目々でお願い攻撃。

「え、えーチョコは僕、作った事ないよ?」
「でも、お料理もお菓子も美味しく作れるお兄様なら、チョコも作れると思うの」

「榎木、断っていいから」
困ってる拓也に助け船を出す藤井。
「一加、何でも榎木頼ンじゃねぇよ。自分で出来ないなら、諦めろ。つか、早いんだよガキが手作りとか」
呆れ半分に一加を咎める。
しかし、

「ガキとか関係ないもん!」

キッと鋭い睨みで一加は藤井に食ってかかる。

「恋する気持ちに子供も大人もない!子供だからって、実ちゃんに心を篭めたプレゼントしたいって思っちゃダメなの!?」
9歳ながらに真剣に帯びた瞳の一加に、拓也はハッとする。

(恋する気持ちに、年齢は関係ない―――か)

「そうだよね。分かった。でも少し、時間くれるかな?」
「拓也お兄様?」
「榎木!?」

「チョコレート作り、少し勉強するね」

拓也は片目を瞑って、一加と約束を取り付けた。
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