Rain Drops

彼女達の見えなくなった図書室の入口を見つめる事数秒、ふっと息を吐いて本に視線を戻そうとすると、今度は背の高い男子生徒が入って来た。

「藤井君!」

「待たせたな」

拓也は手にしていた文庫を鞄に戻しながら、藤井に近付く。

「掃除当番、お疲れ様」
微笑んで労いの言葉を掛ける。
そんな拓也を藤井は愛しそうに目を細め
「ん。帰るか」
と答えた。

傘を差し、並んで歩く。
「あー、雨だりぃ」
と藤井は欝陶しそうにぼやく。
「そうだね」
と、クスリと笑って拓也は首を傾け傘の向こうを伺い見ると
「でも、このくらいの雨だったら、僕は好きだよ」
音とか癒される、と目を閉じて幸せそうに言った。

「そんなモンかねー」
と藤井は珍しいものを見るように、拓也を眺めた。

「それはそうと…」
藤井は拓也に視線を合わせるように、顔を覗き込んで

「この色男」

と意地悪そうな笑顔で拓也に言い放った。

「な…!」
拓也は一気に顔が熱くなるのを感じた。
「みっ見て…!? どこから…!?」
慌てる拓也に、ますます面白く感じ藤井は拓也を揶揄う。
「一部始終?あ、でも流石に話してるのは聞こえなかったけど、告白だろ?アレ」
「うー、そうだけど…」
「榎木は何て断るの?」
拓也の反応を楽しんでいる藤井に対し、拓也は恥ずかしさで堪らなくなる。
「もう!普通だよ、ごめんなさいって…」

ぷいと赤く染まった頬を膨らまして横を向く拓也が、堪らなく可愛くて。
―――こんな可愛い奴、他の誰にも渡すかよ。

藤井は周りから見えないように(他に人はいなかったけど)傘を盾にして、拓也の唇を奪う。
軽目のちゅっとリップ音。

そんな不意打ちと無謀な状況でのキスに
「藤井君!!」
と、ますます真っ赤になって抗議をする拓也。

「だーいじょうぶだって。下校のピーク過ぎて人いないし」
へらっと笑って今度は額にキス。

「…………っ」
唇が触れた額に手を当てて言葉が出ない拓也。


「雨降りも、たまにはいいな」
と、傘の陰に隠れてもう一度キス。
「もう…」
と、諦めた拓也も、流されてしまう自分に呆れながら、そのキスを甘んじてしまう。

「どんな状況でも、こんな風にキスしちゃうなんて、藤井君のスケベ」
視線を外し憎まれ口で照れ隠し。

「お褒め頂き、ありがとう」
「褒めてないし!!」
皮肉をも余裕で返す憎らしい恋人に、もう一度唇を奪われるのは3秒後。

甘いキスを受けながら、拓也の耳には、優しい雨の音が心地良く響いていた。


-2013.02.06 UP-
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