願うは 君の しあわせ

チャイムが鳴り、担任の寛野が教室に入って来た。

当番の子が「きりーつ」と言うと、生徒達は立ち上がり、寛野は子供達を見渡す。
「今日は、お母さんやお父さんが来てくれています。緊張しないで、いつも通りのみんなを見てもらいましょう」
と声を掛け、「はい!」の返事の後、着席の号令で座る。

その後、父兄の方に視線を移した寛野は一瞬瞠目したが、すぐに穏やかな表情に戻す。

改めて寛野と目が合った拓也は、浅く会釈をした。

「さて、今日の算数は、足し算の続きだったな」
程なく、授業が開始された。


授業は滞りなく進み、帰りの会、そして、担任の挨拶をもって参観プログラムは終了した。

寛野が面談を希望する親の子は校庭で遊んで待ち、希望しない親子は解散の旨を伝え、終了となった。
帰る親子や校庭ヘ行く子で、教室内は賑やかになる。

「兄ちゃん!僕一つ答えられたよ!」
実は嬉しそうに拓也に駆け寄り抱き着く。
「うん、偉かった!」
と拓也は実の頭を撫でてやると、一層実は嬉しそうな表情をする。
「実、お兄ちゃん、先生とお話してくから、校庭で遊んでて?」
と拓也が言うと、
「ふーん?わかった!」
じゃ、後でねーと実は手を振り、校庭組の友達の輪に入り、昇降口ヘ向かう。

廊下に並べられた椅子に座って順番を待っていると、中から一人の父兄と一緒に寛野が出て来て
「次、榎木実君のご父兄の方」
と呼ばれた。
ドキッとした拓也は
「は、はい!」
と緊張しながら返事をし入室した。

「座って下さい」
着席を促され、児童用の机を寛野と挟み、向かい合って腰を掛ける。
椅子も児童用の為、
(わ…こんなに小さかったっけ…)
と拓也は感慨深く思った。

「お久しぶり」
寛野は穏やかな表情で拓也を見る。
「お久しぶりです」
と拓也も挨拶をしながら、寛野のそんな表情と言葉で、緊張が解れていくのがわかった。

「実君の担任が決まった時、君に会う機会もあるかもなと思ったよ」
「………」
それは良い意味なのか悪い意味なのか、拓也には判断が付かず、返事が出来なかった。
「勿論、僕は会いたいって思ったけどね」
寛野の言葉に、拓也は安堵な表情を浮かべ「僕もです」と答えた。
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