風邪の特効薬は何でショウ?

暫くすると、ずっと抱かれていた拓也がもそっと動き、顔を上げた。
「落ち着いたか?」
「うん…」

藤井は拓也の額に手を当てる。
「熱も大分下がったみたいだな」
「うん…薬飲んで寝たから、さっきより大分楽…」
「でも、油断は大敵だな」
ぽんぽんと頭を撫でて、笑顔を見せる。

照れたように拓也は、撫でられた頭に自分で触れ、
「藤井君…一加ちゃんかマー坊と間違えてる?」
と藤井に聞く。
「………は?」
いきなり突拍子もないことを言われ、呆気に取られる藤井。

「いつもより優しいし、一加ちゃんやマー坊にはこういう態度とるのかなぁって…」
「いやいやいやいや、寧ろそれは有り得ねぇし」
あんなクソチビ共にこんな態度取れるか!

「こんな態度取れるの、お前にだけだよ」
と、ふいっと横を向いて表情を隠す。
でも、拓也から見える僅かな頬は照れているのか赤くなっているのは見えていて…

「ありがとう、藤井君」
と素直に笑顔でお礼を言う拓也。

そんな拓也の様子を横目でチラっと見て
「隙あり」
と唇を塞ぐ。

すぐさま藤井の胸を押し退けて
「ダメだよ!」
と拓也は抗議する。
「風邪感染るからダメ!!」

力無く腕を突っ張って抵抗する拓也の手を取り、動けないように抱きしめて、
「いいから感染しとけ」
と、藤井はもう一度唇を塞ぐ。

元々の熱と与えられる熱で、拓也は抵抗しなきゃと思いつつ、朦朧としていく意識の中、甘い口付けで力が抜けていくのを感じた。



次の朝―――。
「やたっ平熱!」
体温を計り、表示された36.1℃。
「ご心配かけましたー」
と、朝食の支度を手伝いながら、春美と実に言う。
「一日で治ってよかったね!」
「でも、今日は無理はするなよ?」
と実も春美も安心した様子で食卓に座る。
今日も榎木家は仲良しです。


「行ってきまーす」
元気に家を出て、駅に向かって歩いていると、ケータイのバイブが走った。
「あ、メール」
受信BOXを見ると

『風邪引いた。休む』

藤井からのメールだった。



学校へ着くと
「あれ?今日は藤井がいないの?」
と小野崎に言われ
「うん…風邪だって…」
と、目線を逸らし気まずそうに答える拓也。

「…それって…」
「言うな」
と、布瀬に止められ
「ああ…」
と呆れた顔で、小野崎は斜め前の席で授業の準備を整える級友を眺めた。


-2013.01.28 UP-
3/3ページ
スキ