風邪の特効薬は何でショウ?

「兄ちゃーん、藤井の兄ちゃん来たよー」
放課後。宣言通り、藤井は榎木家へ訪れた。
学校から帰った実が家にいたので、藤井は実に拓也の部屋へ案内された。

しかし返事がない。

二人顔を見合わせて、部屋に入ると
「寝てる…か」
壁側に体ごと向いて、眠っている拓也の姿があった。
「僕帰った時は起きてたんだけど…」
実は軽く溜め息を吐く。
「それだけしんどいって事だよ」
「うん…」
実も心配そうな顔をする。

藤井はそんな実を励ますように実の頭をそっと撫でて、
「少し、ここにいてもいいか?」
と聞く。
「うん…あ、だったら、僕商店街にお使い行ってきてもいい?」
夕飯の買い出し、僕も出来る事、手伝いたいからと言う。
「ん。行ってこい。気をつけてな」

この家の人間は、何て健気な人達だろう…と藤井は思った。
拓也に然り、実に然り、父を慕ってそれぞれがお互いを尊重し、自分を持っている。
拓也を、榎木家を見ていると、自分もしっかりしなければ…といつも奮い立たせられる思いをするのだ。

部屋に残った藤井は、拓也の勉強机の椅子をベッドの脇に移動し座った。

顔は壁側に向いてるので表情は見えないが、布団の膨らみ方から体を丸くして縮こまっているのが分かる。
(寒いのか…?)
と思った時、

「あ…」
と声を発し、拓也は仰向けに寝返りを打ったかと思った矢先、
「や…待って…やだ…っ」
とうなされながら、ボロボロっと涙を溢れさせた。

「榎木!榎木!!」
藤井は拓也を起こそうと、必死に声をかけて肩を揺らす。
「あ…」
揺さぶられて意識を覚醒させた拓也は、
「ふじー…くん…?」
と呟いて、ギュッと藤井の首筋に腕を回し縋り付いた。
「怖か…っ」
「うん?」
安心させるように、藤井は拓也の背中を撫でる。
「みんな、いなくなっちゃ…」
「いるよ?」

母親を事故で亡くし、弟も事故で生死をさ迷った過去がある。
それは、拓也にとって充分過ぎる程のトラウマになっているのは事実だった。

「実も親父さんもちゃんといる。俺も絶対離れないから安心しろ…!」
ギュッと身体を支える腕に更に力を込める。
「うん…」

拓也が落ち着くまで、藤井はずっと抱きしめながら、頭や背中を撫でていた。
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