風邪の特効薬は何でショウ?

「うっわ…」
拓也は体温計を見て一言だけ発した後絶句した。

表示された数値は―――38.3℃。

(どうりで怠いワケだよ…)

いつも通りの時間に起床した拓也は、怠さを感じながらも、部屋で制服に着替えキッチンへ下りたが、余りにもフラフラな状態の息子に春美が体温計を渡したのが5分前。

「拓也、どうだ?」
春美の問いに
「あはー、風邪みたい」
と、拓也は苦笑しながら体温計を見せる。
「うわっ、こりゃ欠席だな」
表示された数値を見て、春美も驚く。

「兄ちゃん、お熱なの?」
朝ご飯の準備の手伝い(と言っても箸並べたりだが)をしていた実も心配そうに拓也を見る。

「うん。だから、実も感染らないように、なるべく近寄らないでね」
そんな兄に対して
「えー」
と不満全開な実。

えーじゃない!と弟を叱る長男に春美は
「ほら、拓也は部屋戻って休め。お粥作っとくから、食べられる時に食べろよ?」
と、実に朝食の皿を渡しながら言う。

「えー大丈夫だよ…パパ、遅くなるよ?」
父の出勤時間を心配する息子に対し
「少しくらい平気。その為に普段、必要以上にしっかりやってるんだから」
そんな事心配するんじゃないと、今度は拓也が父親に咎められる。

はい、と素直に返事をし、拓也は部屋に戻った。

フラフラする中、一度脱いだパジャマにもう一度着替えて、ベッドに入ろうとした時、

(あ…)
藤井君にメール!

と気付いて、ブレザージャケットのポケットに入れてあったケータイを取り出した。

『風邪引いちゃったみたいだから、今日は休みます。みんなによろしく』

「送信、と」

するとすぐに、着信のメロディーが鳴る。

「え、あれ、藤井君?」

表示された名前を見て、通話ボタンを押した瞬間

『大丈夫か!?』

の声が飛び込んで来た。
「う、うん大丈夫だよ、ちょっと熱が高いだけ…」
拓也は普通に喋ったつもりだが、
(無理して喋ってんなー…)
と、声を聞いただけで判断出来るのは、幼なじみだからなのか、藤井だからなのか。

『放課後、行っていいか?』
の問いに対し拓也は
「ダメ。感染るよ」
と断る。

『じゃあ、コレならどうだ?』
「え?」
『俺が熱で学校休んだら、榎木はどうする?』
「……………」
『決まり』

「ずるいよ、藤井君!」
そんな言い方、断れないじゃないかと、拓也は責める。
すると
『ずるくない。俺も榎木が心配って事、分かれよ』
と反論された。
「…………」
熱のせいなのか、それ以外の理由なのか、拓也の瞳が潤む。

「…病院行った後、ポストに鍵入れておくから、来た時 実いなかったら入って来て」
でも寝てたら対応できないからね?
『了解。寝ててもいいぜ?』
体調悪いんだから。

『電車来たから、切るな?しっかり休めよ』
藤井は、穏やかな声で拓也に労りの言葉をかける。

拓也はフワフワする感じは熱のせいかなぁ?と思いながら「うん」と返事をした。

『じゃ…』
「あっ!待って!」
拓也は急に思い出したように、切るのを阻む。

「行ってらっしゃい」
『………』
一瞬、変哲もない挨拶が、特別な言葉に聞こえる不思議。
『行ってきます』

ピッと電源ボタンを押した藤井の顔が赤かった事を、拓也は知る由もなかった。
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