本物のキスを君に

黙り込んでしまった藤井の顔を隣で見て、拓也は一つ大きく息を吐く。

「小6の時に…」

「!?しょ…小6!?」

何と卒業間際にあんな恋愛騒動起こしておきながら、既にファーストキス済みだったのか!?

「…お向かいの成一さんに…」

真っ赤になって涙目でカミングアウト。

「ちょ…ちょっと事情があって…奪われた…」

「………」

「やっ、やっぱり軽蔑するよね…?」
言葉が出ない藤井の顔を見れなくて、拓也は顔を背ける。
「い、いや!?…軽蔑じゃなくて…驚きはしたけど…」
「………」

拓也の肩をぐっと引き寄せる。
ビクっとして藤井を見上げる拓也。
「事情って...何があったかは聞かないけど、事故のような物だと思っていいか?」
「事故...」
そう、思ってもいいのだろうか。
「合意じゃないんだろ?」
「!うん!」
「じゃあ、カウントしなくていい」
「藤井君……」
許してくれるのだろうか。
「他には?」
「え?」
「他にはいないのか?…女子とか」
「いっいない!!」
「よかった…そっちのが、安心した」
「......…っ」

(軽蔑どころか、そんな風に言ってくれるなんて...)

感極まって今度は拓也が言葉に詰まる。

戸惑いと驚きが入り交じった感情は、ただただ涙をこぼさないようにするのが精一杯で。
「榎木...」
そんな拓也の頬にそっと触れる。
少しずつ距離が近づいて。


触れるだけの、優しいキス。


「これが、ちゃんとしたファーストキス」
「…うん」

照れくさくて、そっぽを向き合う二人。

「か、帰るかぁ…!」
「そっそうだね!」

まだまだ幼い二人のキス。



分かれ道で別れて、それぞれの家に向かう。

(あんな事言ったけど…)
藤井的には、やっぱり少し気になってしまう。

(榎木のファーストキスの相手は大人かぁ…)

…なんか違う方向な気がするが、藤井にとって相手が大人というのは重要ポイントのようだ。


一方、
「あ…」
「拓也今帰りかー?」
拓也は家の前で成一とばったり会った。
「成一さん…僕、成一さんに怒ってるんだから、暫く絶交だからね!」
「…はっ!?」
ぷんっと思いっきり顔をそらして自宅の門扉に入る。
「ちょ、何?俺、何かした!?」
成一は門扉の柵から乗り出し問う。
「4年前!!同窓会!!」
「えー?何だっけ?…智子ちゃんのだっけか、同窓会って…」
「おっ覚えてないの!?成一さんのバーカ!大っ嫌い!!」
ガラガラ ピシャン!!
らしくなく、乱暴に引き戸を閉めて拓也は家に入って行った。

その様子から、相当荒れてんなと思った成一は後日、智子から当時の事を聞き出し拓也に土下座をして謝った。
成一が忘れている事実に、智子も大変呆れたものだが。

しかし、そこで一件落着しとけばいいものを
「でも、今そんな事言い出すという事は…拓也、キスする相手でも出来た?」
にひゃっと笑って聞く成一。
「!!」
拓也の逆鱗に触れた成一は、暫く榎木家を出禁になったのは言うまでもない。



-2013.01.08 UP-
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