本物のキスを君に

(どっどうしよう…)
今は帰りのHR。
今日はたいした連絡事項もないらしく、間もなく終わりそうだ。

5限目と6限目の間は、トイレに逃げ込んで時間ギリギリに教室へ戻った拓也。
(用があるって、先に帰る…?)
でも…
斜め後ろから感じる視線が、物凄ーく痛い。
(いつまでも逃げてる訳にもいかないもんなー…)
覚悟決めなきゃ、あぁ、でもでも…

そんな頭グルグル状態のまま、無情にも最後の連絡事項を告げる担任。

一か八か…
「じゃ、今日のHRは終了。また明日!」
言うが早いか、ガタガタっと席を立ち上がり、教室を飛び出る!

「逃がすかよ…!」
予想していた藤井も、すぐさま追い掛ける。

「コラー、榎木!藤井!廊下走るなー!!」
担任が叫ぶ隣で
「頑張れ藤井ー!!」
「明日聞かせろよー!!」
中橋と穂波がエール?を送った。

「あの脚、陸上部に欲しかったよなぁ…」
と陸上部員の小野崎がポツリ。
「アイツらは家庭の事情もあるからな」
「今日は生徒会?」
「おう」
布瀬は後期から生徒会役員に入っていた。
まだ一年だから、ポジションは下だが。

「まあ、アイツらはアイツらでガキん頃からの絆があるから、大丈夫だろ」
「だな。んじゃ、また明日」

なんだかんだでバランスの取れている6人組である。



「榎木…!」
校門を出て数メートル、パシっと左手首を捕まえた。
「やっと…捕まえた」
ハァハァと、二人で息切れ。
校舎の中から換算すると、優に1キロは全力疾走をした筈。

「何で逃げる?」
藤井が問う。
「藤井君が追うから」
答える拓也。
「押し問答したい訳じゃないんだけど…」
「………」

まだ学校から近い通学路。
生徒の往来が激しい時間の為、取り敢えず移動しようと歩き出す。

駅に着いたけど、何となくまだ自宅最寄りに向かう電車に乗る気にもならず、いつもとは反対側の出口に向かい、駅近くの森林公園を散策をする事にした。

「言いたくない相手なのか?」
藤井が意を決して口を開いた。
「何…?」
「ファーストキスの相手」
「で、出来れば…」
「俺の知ってる奴?」
「うん…」

藤井はドキっとした。
あぁ、やっぱり初めては済んでるのか、とほんの少しのショックとそれを上回る知ってる奴宣言。
(小学生の頃、榎木にかなり本気だったと思われるあの三人の誰かか…それとも、中学の時榎木に告った他の奴か…榎木何人位に告られてたっけ?)

中学時代の頃を、藤井の頭の中を駆け巡る。
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