それは幸せなアレルギー

「はー…サボっちゃった…」
拓也は屋上にいた。
でもこんな状態じゃ授業に出られない。
「困ったなー、この1限の間で何とか落ち着かなきゃ」

(何か別の事考えよう…)
今夜はカレーって言ってたなあ…じゃあ明日はリメイクしてドリアかカレーうどん?
あ、明日実、確か体育あった筈だから、今夜体操着用意しなくちゃ。

「…僕って…」
藤井君の事以外で考える事って何でこんな事!?
およそ16歳男子の思考じゃない…と自分でも思った。

(ママ…)
ママもパパに対して、こんな気持ちになった事あるのかな?
遠い記憶の母の面影を思い起こし、拓也はそっと目を閉じた。


キーン コーン カーン コーン …

3限目終了を告げるチャイムにビクッとなる。

「あ…っ」
授業終わっちゃった…
教室に戻らなくちゃ…
でも脚が、フェンスを握ってる手が、動かない…。

「…っ」
涙が溢れる。
自分のやってる事や、今しなきゃいけない事、考えてる事、思ってる事…
もう何が何だか分からなくて、自分で自分が分からない――――…

ギ…
屋上のドアが開く音がした。
ギクっとして振り向くと、

「榎木…」

心配そうな表情の藤井がそこに立っていた。

「藤井…君…」
「教室に戻っても、榎木戻らないから…捜した」
「ご、ごめ──」
「謝らなくていい!」
拓也の言葉を遮るように言葉を被せる。

「昨日…俺、何かしたか?」
「え?」
「昨日、俺ん家行ってから榎木おかしい」
真剣な藤井の瞳が拓也を貫く。
「違う…藤井君は何もしてないし悪くない」
そんな藤井の視線に堪えられなくて、顔を逸らして答える。
「じゃあ、俺の顔ちゃんと見ろよ!お前、人と話す時はちゃんと相手の顔見る奴だろ!」
「だっ、だって…!」
キッと顔を上げる。

「藤井君見ると、涙が止まらない…っ」

言いながら、ぽろぽろと涙を流す。

「ほっほらぁ…」

思いも寄らない答えに呆気に取られる藤井。

「な…何で…?」
「………」
もう、言わなきゃダメかな。
言ったら、どうなる?
今までみたいな付き合い出来なくなる…?

(それは…ヤダ)

「ダメ。秘密」
ぷいっと横を向いて子供みたいな返事。
「…は?」

(こんのクソガキ…)
流石に藤井だって、これだけの拓也の態度から自分にとって都合の良い展開になりそうな気がしていた。
でもこの拓也のこと、万が一という事もある。
(勘違いじゃなければ…)
グイッと拓也の腕を取り、抱き止める。
「ふっ藤井…」
「俺は好きだから。お前の事、恋愛対象として」
「…っ」
思いがけない藤井の告白に、拓也は言葉に詰まる。
「榎木は?」
身体を離し、顔を上に向かせる。
ぽろぽろと溢れる涙。

「ビンゴ…?」
「ビ…ビンゴ。」

それだけ言って下を向く。

(恥ずかしくて顔上げれないよ…!)

「榎木」
「ん?」
「2限連続サボリなんて初めてだな」
「あ…」
腕時計を見ると既に授業の半分の時間が過ぎていた。


仕方ないから観念して、二人並んでフェンスにもたれて座り込む。
暫く沈黙していた二人だが、先に藤井が口を開いた。

「しかし、アレだな」
「?」
「俺見て涙出るってアレルギーみたいだな」
ヘラっと笑って拓也の頬をつついた。
「な、何それ...」
つつかれた頬に触れ、でも確かに言い得て妙だなとちょっと思った。

「でも…」
榎木の泣き顔、実は好き。

言われてかぁっと顔が熱くなるのが分かる。
「へっ」
「榎木?」
「藤井君の変態!!」


-2012.12.30 UP-
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