それは幸せなアレルギー

(そろそろ藤井君と会う辺りだ…)
いつもの時間、いつもの通学路。
(平常心、平常心…)
胸に右手を当ててすぅーっと深呼吸。
すると、角を曲がると前方に見慣れた後ろ姿が。

(藤井君────!)

途端に鼓動が早くなるのを感じる。
(うー…これじゃあ声かけられない…)
早く声をかけたいのに。
頭と心が別々の意志に支配されてるような感覚。

僅か数メートル後ろで一人百面相をしていると、不意に藤井が振り返った。

「榎木!?」
「あっ!えへへっおはよう!」
慌てて取り繕って挨拶をする。
「何か少し前から視線を感じるとは思ったんだけど……ストーカー?」
「ちっ違っ!!」
冗談で言ったつもりが半ば本気の反論が帰って来て少々驚いた表情をする藤井。
「いや…まぁ…榎木にならストーカーされても構わないけど…」
「…え?」
拓也は、自分の言動やら必要以上に打つ鼓動やらを持て余してうっすら涙目になっている。

(何か…やっぱり変だよな…?)
藤井は拓也のそんな表情を見て思ったが、取り敢えずはいつも通りにしようと思い、別の話題を振る。
「昨日プリン、サンキューな。美味かった」
「あ、ううん。お口に合ったようで」
よかった、とふわっと笑う。
(お、いつもの表情)
「今日は古文があるなーダリィ」
「藤井君…」
寝ちゃ駄目だよーといつもの調子の会話。
段々普段の拓也の調子に戻ってきたようで、藤井も何となく安堵した。

(やっと落ち着いてきた…)
まだ鼓動はいつもより若干速いけど。

電車に乗り込んで、二人は学校へ向かった。
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