雨と涙の一雫

(榎木…)
何で泣いていたのか?
考えても考えても分からない…。
泣けるマンガでも読んでたか?
…違うな。

「あーもー、わっからーん!!」
頭が混乱した藤井が叫ぶと
「うるさいわよ昭広兄ちゃん!!」
一加が部屋のドアを開けた。
「一加!?勝手に入ってくんなよ」
「何言ってんの?何回もノックしたのに無反応な上に突然叫んでるし!」
「あ…そうだったのか、ワリ」
「はい。コレ拓也お兄様から!」

一加から小さな紙袋を一つ渡された。
「今日はごめんって、また明日って伝言貰った。ケンカー?もう、どうせお兄ちゃんが悪いんだから、ちゃんと謝りなさいよねー」

「一加…」
好き勝手に言う一加にキレそうになるのを一生懸命抑えて
「榎木、帰ってからどうだった?」
と探りを入れる。
「んーまず洗面所直行して顔洗ってたみたいだけど…その後"いらっしゃーい"と言っただけで2階に行っちゃった」
いつもは私達とお喋りしたり、お夕飯の支度したりするのに。

「拓也お兄様、こんな無神経男相手になんて悩まなくてもいいのに…」
「はいはい、これサンキューな。殴られたくなかったらすぐ退散」
「何よもー自分から話ふっかけてきたクセにー」

文句を言う一加の背中を押して部屋の外に追い出すと受け取った袋の口を開く。
「あ…」
その中身はプリンだった。
(榎木の手作りプリン…)
一緒に入ってた使い捨てスプーンで一口食べる。
(美味い)
泣いてた理由は分からないけど。
プリンで悩んでた頭がスッと軽くなった気がした。


ピロリン♪
拓也の携帯にメール着信音。
覗くと藤井昭広の文字。

『美味かった。
ごちそうさま。
また明日。』

短いメールが彼らしく。
それだけで、心が温かくなって苦しくなる。

(明日から、普通に接っせられるかなぁ…)
不安。
だけど、この気持ちを感じる事は幸せ。

逸るドキドキを抑えつつ、拓也はベットの中に潜り込んだ。


-2012.12.27 UP-
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