雨と涙の一雫

暫くすると
「藤井君…」
とドアをノックされ、拓也が部屋に入って来た。

「シャワーありがとう」

予想通りというか何と言うか。
拓也よりワンサイズ程大きく成長した藤井のシャツは拓也には大きめで。

「⋯⋯っ」
一瞬感じた目眩を振り切るように
「俺もシャワー行ってくる!」
と部屋から出る。
「う、うん!行ってらっしゃい!」
部屋に残された拓也は、二段ベッドに背中を預けカーペットの上に座りこんだ。

(ドキドキする…)
だって、体育座りをした膝の上に置いた腕に頭を乗せれば、袖から藤井君の匂いがする。
借りたシャンプーで洗った髪も藤井君と同じ匂い。
(どうしよう…)
ドキドキしすぎてどうにかなりそう…。

(あ…)
『感情が高ぶると、涙が出るんだ』
パパがいつか話してくれたママとの馴れ初め。
『パパがママの事好きだと気付いた時、本当に涙が出たんだ』

(それを聞いた時はいまいち僕はよく分からなかったけど…)

「榎木」
カチャッと静かにドアが開いて
「あっ」
顔を上げた瞬間────

ポロリと涙が一雫。

「────え?」
固まる藤井。

「────あ、あれ?」
それをきっかけに、ぽろぽろと、とめどなく涙を溢れさせる拓也。

「何泣いて…」
無意識に拓也の頬に手が伸びた藤井の手に、拓也は思わずビクッと肩を竦めた。
「ご、ごめん!帰るね!」

濡れた制服を入れた紙袋と鞄を持って慌てて拓也は部屋を出る。
「ちょ、待っ…」
藤井も慌てて追い掛け、
「傘!傘だけは持ってけ!」
と何とか傘を渡して走り去る拓也を見送った。


借りた傘を開いて家路を歩く間も、ぽろぽろと涙が止まらない。

(どうしよう…物凄く好きなんだ…)
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