桜・煌めく・Xmas

「はー、楽しかったー」
「久々身体動かしたー」
「俺、明日右腕筋肉痛かも…」
「それ鈍(なま)りすぎだろ後藤…」
ボウリング場から出ると、すっかり空は暗くなっており空気も冷え切っていたが、身体を動かして程よくほてった体温には心地良い冷たさだった。

「さて、帰るか」
「明日からまた受験勉強の日々だね」
「言うなよ拓也~」
「大変だなぁ、頑張れよ!」

小6の頃の気分から中3の現実へ。
「そう言えば、今日一日誰として恋愛の話なかったな」
と言い出したのは森口。
「俺達お年頃な筈なのにな!」
アハハーと笑う森口。
「えっえっ、森口君好きな子いるの!?」
「まー…可愛いと思う子はいるけど、そこまではなぁ…そういう拓也は?」
「えっ!?」
三人の視線が拓也に集中する。
実際、小学校卒業間際の拓也を巡る恋愛騒動から始まり、中学入学以降は告白される機会は決して少なくなかった。
それは藤井も同じだったが、OKをした相手は拓也も藤井もいなかった。
「いっ今は僕、勉強で手一杯だもん!!」
真っ赤になって否定する。
でも、そう言う一瞬手前、チラっと藤井を見た拓也の視線を森口は見逃さなかった。
「拓也、小6ン時と変わってないねー」
笑いながら背中を叩かれる。
「えっえっ!?」

「だって。ま、頑張れよ」
コソっと藤井に耳打ち。
「!?」
「何年親友やってると思ってる?お見通し」
「………っ」
珍しくうろたえる藤井の姿を見れて、森口は満足そうだった。


駅前まで辿り着くと、ツリーのライトアップが始まっていた。
「流石に綺麗だねー」
「だな」
「しかし、男4人でコレ見る事になるとはな」

ファミリーもいるが、ほぼカップルでごった返しているツリー前。
「わわっ」
人に揉まれて倒れそうになった拓也の手を
「榎木っ」
と掴んだのは藤井。
「あっありがとう、藤井君…」
掴まれた手から顔まで一気に体温が上昇したのを拓也は自覚した。
「きっ綺麗だね、ツリー」
「あぁ」
「来年も、一緒に見たいなぁ…」
とポロっと口から出て
「みっみんなと!!」
と急いで付け足す拓也。
「…そうだな」

(まぁ、まだ「みんなと」でもいいか…...)

何となく離すタイミングを逃した手は繋がったままだから―――…


「すげぇな。あんなに人が多くても二人の世界って出来るのな」
呆れた口調で言う森口と後藤は人だかりから少し離れた場所に移動していた。
「もしかして、学校でもあんなんなの?あの二人」
「いやー、あそこまであからさまでは…」
後藤も呆れている。
「クリスマスマジックか…」
「何だよそれ」


拓也が後藤と森口がいない事に気付き、我に返って手を離すまで、その間幸せの5分間。



この後2ヶ月間、勉強に専念して、それぞれの志望校で見事桜を咲かせた三人。

春休みは、4人で「祝!高校合格ボウリング大会」という名目で遊んだというのは、また後日談。


-2012.12.24 UP-
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