惚れた弱みと小悪魔と

いきさつはこうだった。

今日の藤井家には大人が不在。
母は取材旅行、父は学会。
明美は嫁いで既に家にはおらず、友也も大学生で家を出ている。
浅子は受験生で遅くまで勉強会と、大人の事情が重なった。
そこで、一加から「拓也お兄様、私に料理教えて!」と昨夜連絡が来た。
で、一緒に買い出しに行って、一緒に夕飯を作っていた────という。

「じゃあ、デートの相手って…」
「そっ、一加ちゃん!」

拍子抜けとはまさにこの事か。
「っ、は────っ」
一瞬息を吸って大きく吐く。

「藤井君、途中から僕の話聞いてなかったでしょ?」
呆れた顔で藤井を見る。
「途中から…?」
「だって僕ちゃんと言ったよ?」

『えへへー実はね、藤井君の妹!夕飯作りの手伝い頼まれちゃって』

まっっったく聞こえてなかった…!!!!!!

「僕に彼女が出来たと思った?」
上目使いで顔を覗いて来る。
これはわざと?天然?
エプロン着けてその表情は卑怯だろ。
「ばーか」
「ぶっ」
鼻をギュッとつまんで照れ隠し。

「お兄ちゃん達!いつまで部屋にいるの!?早く食べようよー!」
一加がドアをノックして外から声をかける。
「わかったよ」
と返事をし、部屋を出た。
「一加ちゃん、大分包丁上手になったよね」
「ほんと?やったー!これで実ちゃんの胃袋掴めるかしら!?」
「実の胃袋掴むなら、榎木越えなきゃ無理だろ」
「はっ!!お兄様…ライバル!?」
「あはは…」

形の綺麗なハンバーグを兄貴の権限で分取り頬張る。
「美味い!流石榎木!」
「残念でしたー。ハンバーグの味付けは私だもん」
「でもソースは榎木だろ?」
「そうだけど…うん、ソースなくても美味しいよ」
ソースのついてない部分を食べて「頑張ったね」と一加に微笑む。
「一加ちゃん、美味しいですー!」
マー坊も満足のようだ。
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