投了3秒前
名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「正直、もう限界なんだよね」
そうは言っても、私も限界が近い。どうやったって魔界のこういうところには慣れないな――そう思いながら目の前の悪魔を見つめる。あぁ、私の魔界生活はもしかしたらここで終わってしまうのだろうか。
玄関開けたら二秒で留学。そんな羽根よりも軽い軽さで異世界に招かれてしまった私は、生きるために目の前にいた屈強そうな悪魔のいいなりになるほかなかった。不安だらけの私に世話役としてあてがわれた悪魔はどう見ても人を世話するのに向いている性格ではなく、いくら見目がいいとは言え少し怖い。というか自由を失ったとかでワーワー言われても……困る。
「ハッキリ言って私の方がもっと多くの自由を失ってますけどね」
「それは……まぁ、そうかもな」
怖いとはいえ、こういうところは悪魔ながらにちょっとかわいいと思えるような、そんな世話役だった。
マモンという悪魔の扱いに慣れてきた頃、世話役であることを盾に事あるごとに彼を頼るようになった。今日もそれは例外ではない。
「ねぇマモン」
「あ?」
「教科書、なくなっちゃった」
「……はぁ?」
目星はついている。マモンはやっぱりこの見目の良さが功を奏しているのか大変おモテになるようで、案の定私のようなものが横にいると気分が悪くなるタイプの方がこうしてなにかしらでチクチクやってくるようになった。多分今回もその類だ。
「ねぇ、探すの手伝っ――」
「あのなぁ、時は金なりって言葉が人間界にあんだろ?」
顔にありありと「めんどくさい」と書かれているマモンをきょとんと見つめて次の言葉を待つ。
「金と同じなら失いたくなくて当然なんだっつーの。用件聞いて、テキトーにあしらって、そんで終わりだ。用が済んで良かったろ?」
言外に私を助ける気はないという意味を含ませてニヤリと笑うマモンを見て、なんだか脱力してしまった。
「そっか、じゃあ自分で探すから良いや」
「は? おい! 勝手に出歩くんじゃねぇ!」
悪魔と人間じゃ価値観が違うなんてこと、一番わかってること。なのに、なんでちょっとショックなんだろう。
「ちょっといいかな?」
帰り支度を急かしたわりには別のクラスメイトと話し込み始めたマモンを待つ間、私もまた別のクラスメイトに話しかけられていた。
「なんでしょう?」
「敬語とか堅苦しいのいいよ。それより、君に話があるんだけど」
「私に?」
話したこともないので目の前の彼の名前がわからない。それを申し訳ないと思ううちに手を引かれて戸惑った。
「えっ、なに……」
「ちょっとここじゃ話しづらいからさ、ね?」
柔らかい語気の割には目が笑っていないし、手を引く力はさらに強くなる。そうして私は、世話役の目の届かないところへと連れて行かれた。
「正直、もう限界なんだよね」
そして話は冒頭に戻る。優しそうな印象とか関係ない。見え隠れする鋭い牙を見るに、彼も立派に悪魔だ。
「君みたいな人間がこんなとこ歩いてたら、食われて当然なんだよ」
「そんなことない、よ……?」
「ある。だからお前を食う」
あまりにストレートな殺害予告に戦慄して後ずさる。でも、すぐ壁に追い詰められてしまった。本当に、今回ばかりはもうダメかもしれない。
その時、向こう側にマモンの姿を見つけてしまう。助けに来てくれたと思ったらなんだかどうしようもなく嬉しくてたまらなかった。
「オイ」
マモンが一声かけただけで限界クラスメイトは情けない悲鳴をあげて逃げていってしまった。さすが、魔界の七大なんとか。指先一つで脅威もちょちょいのちょいってやつなんだろうか。とりあえず命だけは助か――
ドン!
壁に背を預けたままの私の顔の真横スレスレに、マモンが足裏で蹴りを入れた。ちょっと蹴っただけなのに壁にヒビが入っていて息を飲む。ネクタイに手をかけられてぐっと引き寄せられ、強制的にマモンの方を向かされた。
「で、助けてやった礼は? なんかねーのかよ、なぁ?」
掠れ気味の低い声にぞくりと全身が粟立つ。ゾッとするほど綺麗な瑠璃の瞳にすっかり囚われてしまってから思うのだけど、マモンが悪魔だと言うことを忘れそうになっていた自分は大馬鹿だ。滲んできた涙で視界がゆらゆら揺れる。このまま泣いたら笑いながら許してくれないかな。
ーーいや、それじゃダメだ。
ゆっくりと一度瞬きをした後、マモンをしっかり、まっすぐに見つめる。驚いたマモンの手が緩んだ隙に離れた。
「あっ」
「お礼の内容、考えとくね!」
言うが早いか駆け出してマモンから逃げる。背中に向かって何か言われた気がするけど、振り返るなんてできない。今これ以上マモンの姿を見たら、私は。
「……ちがう、絶対ちがう!」
頰を撫でる空気は冷たいのに、私の頰をちっとも冷やしてはくれなかった。
そうは言っても、私も限界が近い。どうやったって魔界のこういうところには慣れないな――そう思いながら目の前の悪魔を見つめる。あぁ、私の魔界生活はもしかしたらここで終わってしまうのだろうか。
玄関開けたら二秒で留学。そんな羽根よりも軽い軽さで異世界に招かれてしまった私は、生きるために目の前にいた屈強そうな悪魔のいいなりになるほかなかった。不安だらけの私に世話役としてあてがわれた悪魔はどう見ても人を世話するのに向いている性格ではなく、いくら見目がいいとは言え少し怖い。というか自由を失ったとかでワーワー言われても……困る。
「ハッキリ言って私の方がもっと多くの自由を失ってますけどね」
「それは……まぁ、そうかもな」
怖いとはいえ、こういうところは悪魔ながらにちょっとかわいいと思えるような、そんな世話役だった。
マモンという悪魔の扱いに慣れてきた頃、世話役であることを盾に事あるごとに彼を頼るようになった。今日もそれは例外ではない。
「ねぇマモン」
「あ?」
「教科書、なくなっちゃった」
「……はぁ?」
目星はついている。マモンはやっぱりこの見目の良さが功を奏しているのか大変おモテになるようで、案の定私のようなものが横にいると気分が悪くなるタイプの方がこうしてなにかしらでチクチクやってくるようになった。多分今回もその類だ。
「ねぇ、探すの手伝っ――」
「あのなぁ、時は金なりって言葉が人間界にあんだろ?」
顔にありありと「めんどくさい」と書かれているマモンをきょとんと見つめて次の言葉を待つ。
「金と同じなら失いたくなくて当然なんだっつーの。用件聞いて、テキトーにあしらって、そんで終わりだ。用が済んで良かったろ?」
言外に私を助ける気はないという意味を含ませてニヤリと笑うマモンを見て、なんだか脱力してしまった。
「そっか、じゃあ自分で探すから良いや」
「は? おい! 勝手に出歩くんじゃねぇ!」
悪魔と人間じゃ価値観が違うなんてこと、一番わかってること。なのに、なんでちょっとショックなんだろう。
「ちょっといいかな?」
帰り支度を急かしたわりには別のクラスメイトと話し込み始めたマモンを待つ間、私もまた別のクラスメイトに話しかけられていた。
「なんでしょう?」
「敬語とか堅苦しいのいいよ。それより、君に話があるんだけど」
「私に?」
話したこともないので目の前の彼の名前がわからない。それを申し訳ないと思ううちに手を引かれて戸惑った。
「えっ、なに……」
「ちょっとここじゃ話しづらいからさ、ね?」
柔らかい語気の割には目が笑っていないし、手を引く力はさらに強くなる。そうして私は、世話役の目の届かないところへと連れて行かれた。
「正直、もう限界なんだよね」
そして話は冒頭に戻る。優しそうな印象とか関係ない。見え隠れする鋭い牙を見るに、彼も立派に悪魔だ。
「君みたいな人間がこんなとこ歩いてたら、食われて当然なんだよ」
「そんなことない、よ……?」
「ある。だからお前を食う」
あまりにストレートな殺害予告に戦慄して後ずさる。でも、すぐ壁に追い詰められてしまった。本当に、今回ばかりはもうダメかもしれない。
その時、向こう側にマモンの姿を見つけてしまう。助けに来てくれたと思ったらなんだかどうしようもなく嬉しくてたまらなかった。
「オイ」
マモンが一声かけただけで限界クラスメイトは情けない悲鳴をあげて逃げていってしまった。さすが、魔界の七大なんとか。指先一つで脅威もちょちょいのちょいってやつなんだろうか。とりあえず命だけは助か――
ドン!
壁に背を預けたままの私の顔の真横スレスレに、マモンが足裏で蹴りを入れた。ちょっと蹴っただけなのに壁にヒビが入っていて息を飲む。ネクタイに手をかけられてぐっと引き寄せられ、強制的にマモンの方を向かされた。
「で、助けてやった礼は? なんかねーのかよ、なぁ?」
掠れ気味の低い声にぞくりと全身が粟立つ。ゾッとするほど綺麗な瑠璃の瞳にすっかり囚われてしまってから思うのだけど、マモンが悪魔だと言うことを忘れそうになっていた自分は大馬鹿だ。滲んできた涙で視界がゆらゆら揺れる。このまま泣いたら笑いながら許してくれないかな。
ーーいや、それじゃダメだ。
ゆっくりと一度瞬きをした後、マモンをしっかり、まっすぐに見つめる。驚いたマモンの手が緩んだ隙に離れた。
「あっ」
「お礼の内容、考えとくね!」
言うが早いか駆け出してマモンから逃げる。背中に向かって何か言われた気がするけど、振り返るなんてできない。今これ以上マモンの姿を見たら、私は。
「……ちがう、絶対ちがう!」
頰を撫でる空気は冷たいのに、私の頰をちっとも冷やしてはくれなかった。
1/1ページ