見たいのはいつも甘い夢
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「なぁ、まだ寝なくていーのかよ?」
ベッドに腰かけたままぼーっとしていたら、テーブルの上に雑誌を開きながら我が物顔でくつろぐマモンがチップスを齧りながらそう聞いてきた。留学期間に間借りしているだけとはいえ、一応この部屋の主は私である。毎度のように部屋に行っていいかと聞かれるので、少しなら……と受け入れているうちにマモンの来訪は常態化、この状況をむしろ受け入れてしまっていることに慣れという恐ろしさを感じる。
「マモンが遊びに来てるのに眠れないよ」
「あ? 別に気にすんなって」
なに言ってんだ、とでも言わんばかりにマモンが片眉を吊り上げるのに苦笑する。本当に悪気はないのだろうけど常識のズレを感じてやっぱり彼は悪魔なのだと改めて認識した。
もっとも、眠れない理由は全然別のところにあるのだけど。
「……おい」
「ん?」
マモンの目がすっと細められる。この目は――ちょっと怒ってるな。空気がピリピリ肌を刺してくるような気がして居心地が悪くなった私は、膝の上に置いていたクッションをぎゅっと抱きしめた。
「なんか隠してんだろ」
「えっと――」
「隠し事すんなって。言えよ」
「わかった、ごめん」
ベルフェの一件以来、マモンは隠し事に厳しくなったような気がする。少し迷ったけれど、極稀ではあれど頼りになるときはなるしな……と悩みを話すことに決めた。
「最近怖い夢を見ることが多くて」
「は?」
「それでちょっと眠るのが怖いというか……」
上目でちらりとマモンの表情を確認する。ポカンと口を開けて呆けたようにしていたかと思ったら、意地悪なニヤニヤ笑いへと表情が変化していく。ああ、これだから言いたくなかったんだ。
「なーんだそんなことかよ」
「話さなきゃよかった」
「待て待てそんな拗ねんなって! マモン様が解決してやるよ」
そう言いながら立ち上がったマモンがベッドに寄ってきてなんとなく身構える。ベッドに乗ったマモンは私を通り過ぎて、肘を枕に堂々と横になった。
「……なにやってんの?」
「寝るぞほら、おまえも横になれ」
「ねぇなに言ってんの?」
一笑に付されてこの話が終わるだろうと思っていた私の脳内は混乱を極めていた。人のベッドに簡単に横になるのもそうだけど、添い寝を買って出ること自体意味がわからない。
「早くしろよ」
「だ、だってなんでそれが解決になるの!」
「あ? 人間の見る怖い夢なんてどーせ怪物の夢かなんかだろ?」
「それでどうしてそうなるの……」
「なーんでわかんねぇんだか。横にマモン様がいれば恐れをなして怪物なんてどっかいくだろ?」
なんでそんなに自信満々なのかわからないし、怖い夢の内容は怪物の類ですらない。けれど、たしかに今この瞬間マモンは私の悩みに真摯に向き合ってくれているという事実が私の不安を少なからず取り去っていく。そのことに自然と頬が緩んだ。
「ありがとう、マモン」
「お、おう」
まっすぐ目を見てお礼を言うと、照れ臭そうに視線を外された。お言葉に甘えて、マモンに並ぶ形で横になり胸元に寄り添う。マモンがいつも使ってる香水の香りがふわりと漂って――そして遠ざかってしまった。
何事かと顔を上げると、真っ赤な顔をしたマモンが壁際まであとずさっていた。
「な、な、なにやってんだよ!」
「え? 一緒に寝るって言ったから」
「それは……あ、そうか。いや違ぇ! おまえ何考えて――っ!」
自分から添い寝を提案しておいて急に照れ始めるマモンが可笑しくて、私の中に悪戯心が芽生え始める。壁に張り付く勢いで背中を付けるマモンににじり寄り、そのまま距離を詰めた私は先程の位置におさまった。マモンが息を呑む音が聞こえて、耐えられなくなった私はついに笑ってしまった。
「何笑ってんだチクショー!」
「だって……ふふっ、マモンが先にが言ったのに」
「うるせーうるせー!」
笑っているうちになんだかどっと今日一日の疲れが出てきて瞼が重くなる。マモンがまだ何か抗議していた気がするけど、眠くてうまく聞き取れない。
そして私はマモンのシャツを掴んだまま眠りへと落ちて行ってしまった。
「こんなの……眠れるわけねーだろ!」
ベッドに腰かけたままぼーっとしていたら、テーブルの上に雑誌を開きながら我が物顔でくつろぐマモンがチップスを齧りながらそう聞いてきた。留学期間に間借りしているだけとはいえ、一応この部屋の主は私である。毎度のように部屋に行っていいかと聞かれるので、少しなら……と受け入れているうちにマモンの来訪は常態化、この状況をむしろ受け入れてしまっていることに慣れという恐ろしさを感じる。
「マモンが遊びに来てるのに眠れないよ」
「あ? 別に気にすんなって」
なに言ってんだ、とでも言わんばかりにマモンが片眉を吊り上げるのに苦笑する。本当に悪気はないのだろうけど常識のズレを感じてやっぱり彼は悪魔なのだと改めて認識した。
もっとも、眠れない理由は全然別のところにあるのだけど。
「……おい」
「ん?」
マモンの目がすっと細められる。この目は――ちょっと怒ってるな。空気がピリピリ肌を刺してくるような気がして居心地が悪くなった私は、膝の上に置いていたクッションをぎゅっと抱きしめた。
「なんか隠してんだろ」
「えっと――」
「隠し事すんなって。言えよ」
「わかった、ごめん」
ベルフェの一件以来、マモンは隠し事に厳しくなったような気がする。少し迷ったけれど、極稀ではあれど頼りになるときはなるしな……と悩みを話すことに決めた。
「最近怖い夢を見ることが多くて」
「は?」
「それでちょっと眠るのが怖いというか……」
上目でちらりとマモンの表情を確認する。ポカンと口を開けて呆けたようにしていたかと思ったら、意地悪なニヤニヤ笑いへと表情が変化していく。ああ、これだから言いたくなかったんだ。
「なーんだそんなことかよ」
「話さなきゃよかった」
「待て待てそんな拗ねんなって! マモン様が解決してやるよ」
そう言いながら立ち上がったマモンがベッドに寄ってきてなんとなく身構える。ベッドに乗ったマモンは私を通り過ぎて、肘を枕に堂々と横になった。
「……なにやってんの?」
「寝るぞほら、おまえも横になれ」
「ねぇなに言ってんの?」
一笑に付されてこの話が終わるだろうと思っていた私の脳内は混乱を極めていた。人のベッドに簡単に横になるのもそうだけど、添い寝を買って出ること自体意味がわからない。
「早くしろよ」
「だ、だってなんでそれが解決になるの!」
「あ? 人間の見る怖い夢なんてどーせ怪物の夢かなんかだろ?」
「それでどうしてそうなるの……」
「なーんでわかんねぇんだか。横にマモン様がいれば恐れをなして怪物なんてどっかいくだろ?」
なんでそんなに自信満々なのかわからないし、怖い夢の内容は怪物の類ですらない。けれど、たしかに今この瞬間マモンは私の悩みに真摯に向き合ってくれているという事実が私の不安を少なからず取り去っていく。そのことに自然と頬が緩んだ。
「ありがとう、マモン」
「お、おう」
まっすぐ目を見てお礼を言うと、照れ臭そうに視線を外された。お言葉に甘えて、マモンに並ぶ形で横になり胸元に寄り添う。マモンがいつも使ってる香水の香りがふわりと漂って――そして遠ざかってしまった。
何事かと顔を上げると、真っ赤な顔をしたマモンが壁際まであとずさっていた。
「な、な、なにやってんだよ!」
「え? 一緒に寝るって言ったから」
「それは……あ、そうか。いや違ぇ! おまえ何考えて――っ!」
自分から添い寝を提案しておいて急に照れ始めるマモンが可笑しくて、私の中に悪戯心が芽生え始める。壁に張り付く勢いで背中を付けるマモンににじり寄り、そのまま距離を詰めた私は先程の位置におさまった。マモンが息を呑む音が聞こえて、耐えられなくなった私はついに笑ってしまった。
「何笑ってんだチクショー!」
「だって……ふふっ、マモンが先にが言ったのに」
「うるせーうるせー!」
笑っているうちになんだかどっと今日一日の疲れが出てきて瞼が重くなる。マモンがまだ何か抗議していた気がするけど、眠くてうまく聞き取れない。
そして私はマモンのシャツを掴んだまま眠りへと落ちて行ってしまった。
「こんなの……眠れるわけねーだろ!」
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