好みの女?
働き方改革という単語がやたらに飛び交う中、悪いが港湾更生局麻薬取締部特別広域課(略して特広 )には関係無い。
部下のお前となぜか付き合うようになってもう一年以上が過ぎた。
上司部下と恋人という俺たちの微妙な関係を、お前はしっかり分別付けて行動をしてくれている。今では頼れる戦力だ。
「あ、明日オフ?…どうしたんですか?急に」
俺のデスク前でお前はキョトンとしていた。
「いや、よくよく考えたらお前、2週間出っ放しだったの、さっき気づいてな。流石にそれはマズイ。急で悪いが、明日はオフだ。明日逃したらまたしばらく大変だからな。」
いま抱えている案件は、明日1日位ならひとり居なくても、まぁ大丈夫だろう。それより、すっかり頼もしい部下のコイツにいま倒れられる方が、断然怖い。
「あ、ありがとうございます周防課長。じゃあ、あの、お休みいただきますが…」
「ま、ということで。残務無けりゃ今日は定時で帰れよ。俺はこれから真壁と張り込みだ。」
「はい、お疲れ様です!」
どうしよう。明日急にお休みになってしまった。
確かに2週間休みが無かった。昨日は大捕物があったにしても、でもそんなに大変とかツライとか無かったんだけどな。
私も気づかないなんて異常だけど、もうブラックな特広には慣れちゃった。
うーん、どうしようかな。
「あ!そうだ!」
「え、アイツ明日休みですか⁈また急に言われて困ってたでしょう。てか、明日オレにシワ寄せ来るじゃないですか」
運転をしながら真壁が何気にクレームを言い始めた。藪蛇。
「しょーがねぇだろ、2週間休みナシだったんだぜ。さっき気づいたんだよ。」
「2週間て、俺は何日出ずっぱりだと思ってるんですか、たく。」
真壁が隣でプツプツ言うなかメール着信。アイツからだ。
〉お疲れ様です。いま事務所を出ました。これから衛士さんのマンションに行っていいですか?
ん?ウチに来るのか。
まぁ、構わないが。来てもらっても今夜は相当遅くなるかもだが。
そんな内容の返事をしたら
〉全然大丈夫です!久しぶりにボルと遊びたくて!
はぁ、俺より愛猫か?そうかいそうかい。
てか、家に来るのにいちいち許可なんて求めなくてもいいのを、律儀なヤツだ。
ん、待てよ?
いや、マズイ‼︎いまの俺の部屋‼︎
よし!衛士さんの許可は貰ったし、久しぶりに明日の朝食作り頑張ろう!
それに前に作り置きしたおかずはすっかり無いだろうし、今夜はまたそれを作って、その後は思いっきりボルと遊ぶ!
朝食はちゃんと和食でね。
それより衛士さんの部屋、空き巣の跡みたいになっていないかしら。まぁ、いまさら驚かないけどね。
合鍵を使って衛士さんのマンションのドアを開けた。
「ボル〜、久しぶり!」
ドアをを開けるや、チリチリンと鈴を鳴らしながら衛士さんの愛猫トレーボルが寄ってきた。可愛い黒猫ちゃん。
「ボル〜会いたかったよぉ〜」
ボルが私の足元をまとわりつく中、廊下をスタスタと進み、リビングに入った。
「あらら…」
衛士さんの事務所のデスクと変わらないような、やっぱり空き巣状態。
部屋干しの洗濯物、持ち帰った仕事の書類、灰皿も吸い殻が凄いなぁ。
テーブルには…
「ん?」
マズイ。いや、別にマズくはないさ、あれくらい。
ただアイツがしばらく来なかったから部屋の中は酷い状態だが、まぁ、見慣れてるはずだし、呆れてはいるだろうが…。ただテーブルに置きっ放しにしてるアレを見つけたら、なぁ。多分置きっぱだよな。
「課長、着きましたよ。行きましょう」
「あ、あぁ」
いまはまだ仕事中だ。これから張り込みだし、余計な事は考えるな。
別に見られて困るもんなんてねぇよ。
干しっぱなしの洗濯物を畳んで、書類はとりあえず一纏めにして、ソファーカバーを外して洗濯機行き。
もう、なんでこんなところに靴下一足だけ?
あとは床を掃除機かけて、テーブルを拭く!っと。
なんだけど。
コレ、ねぇ…。
「悪ぃ、いま戻った」
午前1時。交代が中々来なくて本当に遅くなっちまった。
居間の灯りが点いているのは外からわかった。まさか起きてるとは思わなかったが、なんだよ、珍しくボルまで寝てやがる。
俺の寝室で寝てりゃいいのを、電気も消さずにソファーにもたれるように寝ている。
まぁ、そうやって待っててくれるのも、申し訳ないが、嬉しいもんだ。
「…っと!」
やっぱりこいつを置きっ放しにしてしまっていた。
テーブルにポツンと置かれているということは、いやはや見つかっちまったか。
「ん…、えい、じさん?」
「あ、あぁ、悪りい起こしちまった。ただいま。いま戻ったぞ」
「おかえり、なさ、い…。」
このブツを慌てて隠すのも不自然だ。
それより、コイツを早くベッドへ寝かせよう。
「お前、こんな所でうたた寝なんかして、風邪引くぞ。ほらベッドへ連れてくぞ」
「ん、はぁい…」
相当眠そうだな。
残念だが、今夜はガマンするとするか。
朝目覚めたら、隣にお前はいなかった。
なぜか俺の足元にボルが寝ている。
お前の寝顔しか見てないから、夕べは思いっきりかまってもらったんだろう。
「夕べは何食ったんだ?お前」
ボルのデコを指でツンツンしてみた。
・・・起きやしねぇ。
「あ、衛士さん、おはようございます」
「ああ、おはようさん」
恋人が狭いキッチンで朝食の支度をしてくれていた。
「朝ご飯、もうじきですからね。あ、先にコーヒー淹れますね」
「あ、あぁ悪いな」
機嫌は、まぁ、悪くないよ、な?
夕べは余りにも眠そうにしていたから、コトに及ばずになったが。お前は知らんが、俺はガマンしたんだぜ?
「はい、コーヒー」
「ん。」
淹れたてのブラックコーヒーを口に含むと同時に、居間のテーブルに置きっぱにしていた例のブツが消えているのを確認した。吹き出しそうになった。
(…!)
どこにしまったんだ?
コイツ、何も聞いてこないな。逆に不安だな。
「衛士さん、あの、ご飯の前に、ちょっと伺っていいですか?」
急にお前の声のトーンが低くなった。
「な、なんだ?藪から棒に」
「いや、その…」
「なんだよ、どうした。」
「衛士さんて、本当は…」
「うん?」
「ほ、本当はっ、じ、熟女がお好みなんですか⁈」
真っ赤な顔をしながらお前が俯いている。
「へ? …あ、アッッヂ‼︎」
俺は俺で、淹れたてのコーヒーを足元にこぼしてしまった。
「だっ、大丈夫ですか⁈え、えっと、濡れタオル!」
慌てて蛇口をひねって濡れタオルを作り、「ヤケドになっていませんよーに!」なんて言いながら焦ってるお前を見ていて、
(可愛いヤツ)
と、急に愛おしさが湧いてきた。
全く、コイツは何を気にしているんだか。
まぁ、変な誤解をさせたのは悪かったな。
「し、浸みませんか?ヒリヒリしてる?」
もう一度タオルを絞り直して、俺の足の甲に当ててくれている。
「ハハ、なぁ、もう大丈夫だから、ちょっと立ってくれ。」
「え?あ、はい・・・。ひゃっ!」
そう言いながら立ち上がったお前をそのまま抱き抱えて、俺はベッドに直行した。
「俺が熟女が好みかって?これからそれを確認してみるか。」
「えっ⁈あ、あの、ちょっと!あっ!もしかして、はぐらかそうとしてます⁈」
「何言ってるんだ。昨夜はガマンしたんだぜ。ちょうどいいじゃないか」
「え、衛士さん遅刻するから!」
「残念だなぁ、今日は午後からだ。」
ヒヒヒ、と笑ってやった。
しばしそんな問答を続けてやって、そのうちお前は俺の腕の中にすっぽり収まった。
はぐらかすつもりはなかったが、今は無性に抱きしめたくなった。
ポカポカと俺の胸を叩くお返しに、俺は全体重をコイツにかけた。
「衛士さん、お、重いぃ・・・」
「ああ悪いな。で、俺の好みの女は・・・お前だ。」
「・・・‼︎」
「なに照れてんだ?」
本当に、可愛いヤツ。
「ボル、あっちいってな」
ベッド脇にいた黒いかたまりに俺は言った。
”熟女”、ねぇ。
ま、俺にしてみれば同年代みたいなもんだがな。
「なにニヤけているんですか?」
「別に?ほらキス、するぞ。」
夕べのおあずけの埋め合わせ。
腹は減ってはいるが、朝食はもう少し後だ。
ん?
テーブルの上のブツが何かって?
それは、秘密だ。
部下のお前となぜか付き合うようになってもう一年以上が過ぎた。
上司部下と恋人という俺たちの微妙な関係を、お前はしっかり分別付けて行動をしてくれている。今では頼れる戦力だ。
「あ、明日オフ?…どうしたんですか?急に」
俺のデスク前でお前はキョトンとしていた。
「いや、よくよく考えたらお前、2週間出っ放しだったの、さっき気づいてな。流石にそれはマズイ。急で悪いが、明日はオフだ。明日逃したらまたしばらく大変だからな。」
いま抱えている案件は、明日1日位ならひとり居なくても、まぁ大丈夫だろう。それより、すっかり頼もしい部下のコイツにいま倒れられる方が、断然怖い。
「あ、ありがとうございます周防課長。じゃあ、あの、お休みいただきますが…」
「ま、ということで。残務無けりゃ今日は定時で帰れよ。俺はこれから真壁と張り込みだ。」
「はい、お疲れ様です!」
どうしよう。明日急にお休みになってしまった。
確かに2週間休みが無かった。昨日は大捕物があったにしても、でもそんなに大変とかツライとか無かったんだけどな。
私も気づかないなんて異常だけど、もうブラックな特広には慣れちゃった。
うーん、どうしようかな。
「あ!そうだ!」
「え、アイツ明日休みですか⁈また急に言われて困ってたでしょう。てか、明日オレにシワ寄せ来るじゃないですか」
運転をしながら真壁が何気にクレームを言い始めた。藪蛇。
「しょーがねぇだろ、2週間休みナシだったんだぜ。さっき気づいたんだよ。」
「2週間て、俺は何日出ずっぱりだと思ってるんですか、たく。」
真壁が隣でプツプツ言うなかメール着信。アイツからだ。
〉お疲れ様です。いま事務所を出ました。これから衛士さんのマンションに行っていいですか?
ん?ウチに来るのか。
まぁ、構わないが。来てもらっても今夜は相当遅くなるかもだが。
そんな内容の返事をしたら
〉全然大丈夫です!久しぶりにボルと遊びたくて!
はぁ、俺より愛猫か?そうかいそうかい。
てか、家に来るのにいちいち許可なんて求めなくてもいいのを、律儀なヤツだ。
ん、待てよ?
いや、マズイ‼︎いまの俺の部屋‼︎
よし!衛士さんの許可は貰ったし、久しぶりに明日の朝食作り頑張ろう!
それに前に作り置きしたおかずはすっかり無いだろうし、今夜はまたそれを作って、その後は思いっきりボルと遊ぶ!
朝食はちゃんと和食でね。
それより衛士さんの部屋、空き巣の跡みたいになっていないかしら。まぁ、いまさら驚かないけどね。
合鍵を使って衛士さんのマンションのドアを開けた。
「ボル〜、久しぶり!」
ドアをを開けるや、チリチリンと鈴を鳴らしながら衛士さんの愛猫トレーボルが寄ってきた。可愛い黒猫ちゃん。
「ボル〜会いたかったよぉ〜」
ボルが私の足元をまとわりつく中、廊下をスタスタと進み、リビングに入った。
「あらら…」
衛士さんの事務所のデスクと変わらないような、やっぱり空き巣状態。
部屋干しの洗濯物、持ち帰った仕事の書類、灰皿も吸い殻が凄いなぁ。
テーブルには…
「ん?」
マズイ。いや、別にマズくはないさ、あれくらい。
ただアイツがしばらく来なかったから部屋の中は酷い状態だが、まぁ、見慣れてるはずだし、呆れてはいるだろうが…。ただテーブルに置きっ放しにしてるアレを見つけたら、なぁ。多分置きっぱだよな。
「課長、着きましたよ。行きましょう」
「あ、あぁ」
いまはまだ仕事中だ。これから張り込みだし、余計な事は考えるな。
別に見られて困るもんなんてねぇよ。
干しっぱなしの洗濯物を畳んで、書類はとりあえず一纏めにして、ソファーカバーを外して洗濯機行き。
もう、なんでこんなところに靴下一足だけ?
あとは床を掃除機かけて、テーブルを拭く!っと。
なんだけど。
コレ、ねぇ…。
「悪ぃ、いま戻った」
午前1時。交代が中々来なくて本当に遅くなっちまった。
居間の灯りが点いているのは外からわかった。まさか起きてるとは思わなかったが、なんだよ、珍しくボルまで寝てやがる。
俺の寝室で寝てりゃいいのを、電気も消さずにソファーにもたれるように寝ている。
まぁ、そうやって待っててくれるのも、申し訳ないが、嬉しいもんだ。
「…っと!」
やっぱりこいつを置きっ放しにしてしまっていた。
テーブルにポツンと置かれているということは、いやはや見つかっちまったか。
「ん…、えい、じさん?」
「あ、あぁ、悪りい起こしちまった。ただいま。いま戻ったぞ」
「おかえり、なさ、い…。」
このブツを慌てて隠すのも不自然だ。
それより、コイツを早くベッドへ寝かせよう。
「お前、こんな所でうたた寝なんかして、風邪引くぞ。ほらベッドへ連れてくぞ」
「ん、はぁい…」
相当眠そうだな。
残念だが、今夜はガマンするとするか。
朝目覚めたら、隣にお前はいなかった。
なぜか俺の足元にボルが寝ている。
お前の寝顔しか見てないから、夕べは思いっきりかまってもらったんだろう。
「夕べは何食ったんだ?お前」
ボルのデコを指でツンツンしてみた。
・・・起きやしねぇ。
「あ、衛士さん、おはようございます」
「ああ、おはようさん」
恋人が狭いキッチンで朝食の支度をしてくれていた。
「朝ご飯、もうじきですからね。あ、先にコーヒー淹れますね」
「あ、あぁ悪いな」
機嫌は、まぁ、悪くないよ、な?
夕べは余りにも眠そうにしていたから、コトに及ばずになったが。お前は知らんが、俺はガマンしたんだぜ?
「はい、コーヒー」
「ん。」
淹れたてのブラックコーヒーを口に含むと同時に、居間のテーブルに置きっぱにしていた例のブツが消えているのを確認した。吹き出しそうになった。
(…!)
どこにしまったんだ?
コイツ、何も聞いてこないな。逆に不安だな。
「衛士さん、あの、ご飯の前に、ちょっと伺っていいですか?」
急にお前の声のトーンが低くなった。
「な、なんだ?藪から棒に」
「いや、その…」
「なんだよ、どうした。」
「衛士さんて、本当は…」
「うん?」
「ほ、本当はっ、じ、熟女がお好みなんですか⁈」
真っ赤な顔をしながらお前が俯いている。
「へ? …あ、アッッヂ‼︎」
俺は俺で、淹れたてのコーヒーを足元にこぼしてしまった。
「だっ、大丈夫ですか⁈え、えっと、濡れタオル!」
慌てて蛇口をひねって濡れタオルを作り、「ヤケドになっていませんよーに!」なんて言いながら焦ってるお前を見ていて、
(可愛いヤツ)
と、急に愛おしさが湧いてきた。
全く、コイツは何を気にしているんだか。
まぁ、変な誤解をさせたのは悪かったな。
「し、浸みませんか?ヒリヒリしてる?」
もう一度タオルを絞り直して、俺の足の甲に当ててくれている。
「ハハ、なぁ、もう大丈夫だから、ちょっと立ってくれ。」
「え?あ、はい・・・。ひゃっ!」
そう言いながら立ち上がったお前をそのまま抱き抱えて、俺はベッドに直行した。
「俺が熟女が好みかって?これからそれを確認してみるか。」
「えっ⁈あ、あの、ちょっと!あっ!もしかして、はぐらかそうとしてます⁈」
「何言ってるんだ。昨夜はガマンしたんだぜ。ちょうどいいじゃないか」
「え、衛士さん遅刻するから!」
「残念だなぁ、今日は午後からだ。」
ヒヒヒ、と笑ってやった。
しばしそんな問答を続けてやって、そのうちお前は俺の腕の中にすっぽり収まった。
はぐらかすつもりはなかったが、今は無性に抱きしめたくなった。
ポカポカと俺の胸を叩くお返しに、俺は全体重をコイツにかけた。
「衛士さん、お、重いぃ・・・」
「ああ悪いな。で、俺の好みの女は・・・お前だ。」
「・・・‼︎」
「なに照れてんだ?」
本当に、可愛いヤツ。
「ボル、あっちいってな」
ベッド脇にいた黒いかたまりに俺は言った。
”熟女”、ねぇ。
ま、俺にしてみれば同年代みたいなもんだがな。
「なにニヤけているんですか?」
「別に?ほらキス、するぞ。」
夕べのおあずけの埋め合わせ。
腹は減ってはいるが、朝食はもう少し後だ。
ん?
テーブルの上のブツが何かって?
それは、秘密だ。
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